其の弐(八左ヱ門視点) ページ36
「っ!?」
今までとは違う感覚にAの背中は弓形に反り、俺の寝巻きの背中を皺になりそうなくらい掴んだ。
「っく、擽ったい…!」
「可愛いよ、A」
首筋で軽く食むように唇を動かせば、本能を煽り立てるような嬌声が漏れた。
「やっ、ダメ……」
(このダメはどっちの意味だ……?)
四年生に上がった時、山本シナ先生による色の座学があった。
「良いですか?擽ったさと快感は表裏一体です。嫌、駄目、無理などの否定は全く逆の意味で女性の口から聞かれることが屡々ありますが、明確な区別方法はありませんので相手の様子をよく観察して判断しましょう」
それを聞いて“女って難しいんだな”みたいな会話を三郎とした覚えがある。
また、山本シナ先生は脅しのような一言を添えた。
「本当に嫌がっているのによがっていると勘違いして執拗に責めると嫌われますからね」
その恐ろしい一言を思い出したお陰で俺はいくらか冷静になり、すっと身を引いた。
「…ダメ?」
「うん…これ以上はまだダメ」
「分かった!!これ以上はしない!!」
ダメなほうのダメだった…。よかった、嫌われる前で!
「さっき八左ヱ門が本音を話してくれたから、私も一つ、前から思ってたことを話してもいい?」
「うん、何?」
「普段から……例えば夜に話している時とか……手を繋ぎたいなって……!!」
何を言うかと思えば、手繋ぎ?さっきそれ以上の恥ずかしいことをしたと思うんだけど、そんなに照れちゃって…
「ああ、いいよ。これからたくさん繋ごうな!」
初めて手を重ね合わせた。Aの手は園田村へ臼砲を運んだ時に皮が剥けてしまって痛々しい状態だったが、今ではすっかり完治している。
すべすべして細くて小さくて柔らかく、触り心地がいい。
恋仲がすることと言えば抱擁と接吻と思っていたが、恋人と手を繋ぐというのは、こんなにも満たされるものなのだと気付かされた。
「八左ヱ門の手、温かいね」
まださっきの余韻で身体が火照っている。暑いくらいだ。
一方でAの手はやや冷たかった。風のよく通る月見亭に連れて来たことで湯冷めさせてしまった。
「戻ろうか」
「そうだね」
横抱きで長屋へ戻る途中、悪戯っ子のように笑ったAが突然俺の頰に口付けをしてきて、血が沸騰するかと思った。
柔らかな感触が暫く忘れられなかった。
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玉虫厨子(プロフ) - 雪見だいふくさん» わ〜ありがとうございます💓今はペースゆっくりですが更新頑張ります!! (2月4日 16時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
雪見だいふく - この作品めっちゃ好きです〜更新大変だと思うけど、頑張ってください!!!! (2月4日 11時) (レス) id: ebcac87da6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年12月29日 15時