二人の心持の段（八左ヱ門視点） ページ35
自室に草鞋を取りに行くと言うAに必要ないと言い、横抱きにして夜の闇の中を走った。
やって来たのは月見亭。ここなら人目を気にしなくていい。
「俺、Aに嫌な思いさせるかもと思って触れるのを我慢してきたんだけど、今日はそんな余裕も無くて…。Aに触れたいんだけど…」
俺の気持ちをはっきり伝えた。引かれるかもしれないが、それでも勘右衛門と話して本音をぶつけるべきだと思った。
Aはぽかんとしたが、やがてくすくすとおかしそうに笑い始める。
「な〜んだ、良かったー！八左ヱ門が我慢してたんだ。私、女としての魅力が無いのかなって思ってたから安心した！」
「そんなこと心配してたんだ！？ごめんな、鈍感で全然気付かなくて！！Aは俺にとって世界で一番魅力的な人だから！！」
少しでも安心して欲しくて、力強く掻き抱いた。するとAも俺の背中に手を回し、きゅ、と力が入った。
「八左ヱ門、好き」
「俺も、大好きだ……！」
抱き締めていた腕の力を緩めると、お互いの視線がかち合った。Aの団子頭から髪が一房はらりと顔に落ち、それを耳に掛けてやると、指先が背中でぴくりと愛おしく跳ねた。
「…く、口付け、してもいいですか……？」
「なっ、何で敬語なの」
「いや何となく……」
「恥ずかしいからそういうことは聞かずにしてください……」
腕の中で羞恥に耐えきれずフイと顔を背ける彼女が堪らなく愛おしい。
「分かった。もう聞かない」
顔を背けたままのAの側頭部に手を添えて固定してから、首を傾げるようにして唇を迎えに行った。
自身の少し乾いた唇を、Aの小さくぷっくりとした唇に重ねた。Aの唇は少し湿っていて、それがまるで俺との口付けの終わりを惜しむかのように吸い付いているようで何とも言えない心地良さを生んだ。
秋の虫達の奏でる美しい音の数々も、今の俺の耳には残らない。Aから発せられる小さな嘆息だけを拾って、甘美な記憶として頭に刻まれる。
段々と緊張が解けて思考に僅かばかりの余裕が生じる。すると欲望に忠実な本能が次の段階を意識し始める。
俺達が今しているのは
理性と本能のせめぎ合いの末、妥協案として耳の下の首筋に口付けを落とす。
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玉虫厨子(プロフ) - 雪見だいふくさん» わ〜ありがとうございます💓今はペースゆっくりですが更新頑張ります！！ (2月4日 16時) (
レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
雪見だいふく - この作品めっちゃ好きです〜更新大変だと思うけど、頑張ってください！！！！ (2月4日 11時) (レス) id: ebcac87da6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年12月29日 15時
