其の参(八左ヱ門視点) ページ27
嵐の日の一人部屋は物寂しい。
ずっと明かりをつけておくのも油が勿体無いから、こういう日は食堂に行くのが一番だ。油も複数人で使えば経済的だし、大体は誰かが居るから暇しない。
時には普段接点のない下級生と喋るいい機会にもなったりする。
遠くからでも食堂から大きな声が聞こえてきたが、まさに足を踏み入れようとした時、気になる会話が飛び込んで来た。
「こっ、こんな事、訊きたくないんですけどッ!!」
「恋人が出来たって、本当ですか!?!?」
前者が田村三木ヱ門、後者が浜守一郎の声だ。これは恐らく、いや絶対にAに尋問している。
「ああああ"あ"あ"ダメだああ!!私の両耳が返答を聞くことを拒絶しているううう!!!」
「静かにしてくれ三木ヱ門!!Aさんが何か言ったの聞こえなかっただろ!!」
「いつも馬鹿でかい声で叫んでるお前にだけは言われたくないぞ守一郎ぉぉぉ!!」
これは困っているだろうな、と食堂へ入る。
田村と浜がAの腕に縋っていて、至近距離で二人の叫びを聞いていた。Aはこちらに背を向けていたが、声の大きさに驚いているであろうことは想像出来た。
そっと忍び寄ると、Aの耳を塞いでやった。
「こらこら、鼓膜が破れてしまうぞ」
「た、竹谷先輩!」
Aはこちらを向こうと首を回そうとしたが、何となく悪戯心が働いて、耳を塞ぐ手に力を込めて前向きに固定した。
「もしや、Aさんの恋人というのは、竹谷先輩なのですか……?」
「ああ、そうだよ」
「あああ……そんなあぁ!!噂は本当だったんだああああ!!
…いえ、すみません取り乱しました……。どうぞ末長くお幸せにお過ごし下さい……」
二人には明らかな落胆の色が見て取れる。
「お前達もAに気があったんだな。ごめんな……って謝るのも変だけど…」
「私達は大丈夫です。三木ヱ門、残念だけど相手が包容力の竹谷先輩だったらAさんは幸せになれるよ」
「そこに関しては私も同意見だが…!私はただ、私達のAさんが特定の誰かのAさんになってしまったことに心が追いついてないだけでッ!」
後輩から包容力があると評価されていたんだということを知った時、顔を覆ってわっと泣き出してしまった田村を、会話の聞こえていないAが心配して肩に手を添えてさすった。
「確かにAは俺の恋人となったが、お前達さえ良ければこれからも変わらずAと接してやってくれないか?」
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玉虫厨子(プロフ) - 雪見だいふくさん» わ〜ありがとうございます💓今はペースゆっくりですが更新頑張ります!! (2月4日 16時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
雪見だいふく - この作品めっちゃ好きです〜更新大変だと思うけど、頑張ってください!!!! (2月4日 11時) (レス) id: ebcac87da6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年12月29日 15時