其の参 ページ24
八左ヱ門と言おうとした私を遮ったその声が余裕なさげに震えていて。抱き締め返して慰めようかとも考えたけれど、八左ヱ門のことを思ったらそうは出来なかった。
「さっきあれだけ大きな顔しておいて、後輩の恋人に手を出すなんて男としてみっともないよね。明日から君達を祝福するからさ、今日だけはAちゃんを想っていてもいいかな……」
「それはもちろん……でも、」
「うん。竹谷にもAちゃんにも悪いからそろそろ離れなきゃね」
やっと解放された。私も、八左ヱ門にも伊作君にも申し訳なさを感じた。
「
「えっ!抱擁しながら診察してたの!?」
「ふふ、まあね。随分冷えていたけど大事なくて良かったよ」
「ありがとう……この小袖と袴は洗って返すね。しばらく借りていていい?」
「いや、そのまま返して。後で取りに行くからAちゃんの部屋の前にでも置いておいてくれるかい?」
「でも、取りに来させるなんて…。やっぱり綺麗にしてから改めて返しに来るよ」
「気にしなくていいから。お風呂上がりに少ししか着てないんだから綺麗だよ。まして貸した相手がAちゃんなんだから、少しくらい香りを残して欲しいくらい」
伊作君が何か発言する度に私の心は申し訳なく萎縮していく。
「はあ。本当はちゃんと明るいところで僕の小袖を着た君を見たかったな」
「だったらどうして灯りをつけないの?」
「そうしたら僕は本当に我慢出来なくなってしまうよ。竹谷の前に僕が手を付けてしまってもいいの?」
「えっ……それは、困る……!」
「ふふ、冗談だよ。でも、君の姿を直視するのは今の僕には難しいんだ……。見納めなのに勿体無いけれどね」
「伊作君……」
「さ、そろそろ自分の部屋に戻って着替えた方がいい。その格好を竹谷が見たら拗ねてしまうよ」
「う、うん……。本当にありがとう、ごめんね」
「竹谷の愚痴ならいつでも聞くからね」
私の手を取り戸口の外へ出した。
結局部屋はずっと真っ暗だったけど、伊作君は声を震わせていたから、恐らく涙ぐんでいたんだと思う。それを悟られたくなくて灯りをつけなかったのかもしれない。
67人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
玉虫厨子(プロフ) - 雪見だいふくさん» わ〜ありがとうございます💓今はペースゆっくりですが更新頑張ります!! (2月4日 16時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
雪見だいふく - この作品めっちゃ好きです〜更新大変だと思うけど、頑張ってください!!!! (2月4日 11時) (レス) id: ebcac87da6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年12月29日 15時