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◆
「Aちゃん」
仙蔵の居た場所を呆然と眺めていると、またも背後から名前を呼ばれる。
「伊作君！」
仙蔵が突如消えたのは、伊作君が近付いてきたからだったのか、はたまた偶々だったのだろうか。
「ぼうっとしてどうしたの？さっきまでここに誰か居た？」
「あ…ううん」
分からないけれど、仙蔵は伊作君と鉢合わせしたくなかったのかなと思い、何となく嘘をついてしまった。
「そう？それじゃあ僕の部屋に入って。留三郎はまだ居ないから」
意味なくついた嘘の後ろめたさで視線を下げていたのと雨戸を締め切った暗さも相まって、表情は窺い知れなかった。
ほど近くにある伊作君の部屋へ招き入れられる。出入り口の戸を閉めると、夜みたいに暗い。彼らの部屋の窓を塞いだ板も寸分の隙間もなく、陽光が完全に遮断されていて留三郎の職人顔負けの仕事ぶりが垣間見えた。
「わ…灯りをつけないと何も見えないね」
「Aちゃんはそうかもね。僕は暗闇で距離感を掴むのは慣れてるから」
「ああ、そっか。忍たまだもんね」
きっとすぐ伊作君が灯りを灯してくれるだろう。
先程明るい外を見たばかりの私の目はなかなか暗闇に慣れず、灯りなしでは一歩先も見えない。手探りで部屋の中を進むと、思いの外近くに居た伊作君に触れてしまった。
「わ、ごめんね──」
言い終わるより前に抱き締められる。小袖と伊作君は同じ匂いだった。
「い、伊作君？私、もう八左」
「知ってる。無理矢理こんなことしてごめんね、今だけだから……。僕の小袖を着たAちゃんが愛しくて我慢出来なくなっちゃって」
其の弐 ページ23
「一に恐れ、二に侮り、三に考え過ぎ、これをまとめて三病と呼んで取り除くべきとされている。お前が生物小屋に入り浸っているのは知っていたが、相手が奥手な竹谷ならばそう焦ることはないと高を括っていた」
「奥手かもしれないけれど、私は八左ヱ門の男気溢れる優しさに惹かれたの」
「すると私はすぐ手を出す軟派な男に映ってしまった訳だ。硬派な竹谷に飽いたらいつでも私のところへおいで」
そう簡単に飽きたりしないよ、と返答したかったけれど、目の前の仙蔵がほんの少し切なそうに眉を下げて微笑むから口を噤んだ。
そして私が瞬きをする間に姿を消してしまった。
「Aちゃん」
仙蔵の居た場所を呆然と眺めていると、またも背後から名前を呼ばれる。
「伊作君！」
仙蔵が突如消えたのは、伊作君が近付いてきたからだったのか、はたまた偶々だったのだろうか。
「ぼうっとしてどうしたの？さっきまでここに誰か居た？」
「あ…ううん」
分からないけれど、仙蔵は伊作君と鉢合わせしたくなかったのかなと思い、何となく嘘をついてしまった。
「そう？それじゃあ僕の部屋に入って。留三郎はまだ居ないから」
意味なくついた嘘の後ろめたさで視線を下げていたのと雨戸を締め切った暗さも相まって、表情は窺い知れなかった。
ほど近くにある伊作君の部屋へ招き入れられる。出入り口の戸を閉めると、夜みたいに暗い。彼らの部屋の窓を塞いだ板も寸分の隙間もなく、陽光が完全に遮断されていて留三郎の職人顔負けの仕事ぶりが垣間見えた。
「わ…灯りをつけないと何も見えないね」
「Aちゃんはそうかもね。僕は暗闇で距離感を掴むのは慣れてるから」
「ああ、そっか。忍たまだもんね」
きっとすぐ伊作君が灯りを灯してくれるだろう。
先程明るい外を見たばかりの私の目はなかなか暗闇に慣れず、灯りなしでは一歩先も見えない。手探りで部屋の中を進むと、思いの外近くに居た伊作君に触れてしまった。
「わ、ごめんね──」
言い終わるより前に抱き締められる。小袖と伊作君は同じ匂いだった。
「い、伊作君？私、もう八左」
「知ってる。無理矢理こんなことしてごめんね、今だけだから……。僕の小袖を着たAちゃんが愛しくて我慢出来なくなっちゃって」
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玉虫厨子(プロフ) - 雪見だいふくさん» わ〜ありがとうございます💓今はペースゆっくりですが更新頑張ります！！ (2月4日 16時) (
レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
雪見だいふく - この作品めっちゃ好きです〜更新大変だと思うけど、頑張ってください！！！！ (2月4日 11時) (レス) id: ebcac87da6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年12月29日 15時
