調合組の嫉妬の段 ページ22
「おっっっも!」
水を吸った衣の重さに驚愕した。あまりに重いので立ち上がることは諦めて湯船の中で全部脱いだ。
(この重さを纏ったままさっさと風呂場を後にした八左ヱ門はさすが忍たまだなぁ…)
絞って軽くしたそれを抱えて脱衣場に行くと、見慣れない小袖が入った籠が一つある。もちろん私の物ではない。伊作君は私の部屋に入らずに別の場所から小袖を調達してくれたみたいだ。
綺麗な撫子色の小袖に赤錆のような色の袴。手に取ると、ふわっと優しく安心する匂いが香った。
袖を通してみるとぶかぶか。袴もだぶついている。しかしこの時代の衣服の良さはある程度調整が効くところだ。紐をぎゅっと引き絞れば大きな男物だって何とか着られるのだ。
「おお…!やっぱり袴は足捌きがよくて動きやすい!私も袴欲しいなー!」
雨戸を少し開けてみると、まだ台風の目の中にいるらしく、空は穏やかで眩しかった。先程まで雨戸が風に煽られてガタガタと煩かったのが嘘みたいだ。
この時代の建物は令和と比較すると脆弱だ。忍術学園はまだ瓦葺きの建物も多いけれど、一般的な民家なんかは板や植物で屋根を葺いているし、それが台風に耐えられるとは思えない。佐武村の煙硝蔵は石造りで大丈夫だと思うけれど、兵庫水軍の船は心配だ。早く去っていって欲しい。
「ん?伊作……ではなくAか?」
六年長屋へ向かう途中の廊下で、背後から仙蔵に話しかけられた。
「伊作君と間違えるって事は、やっぱりこの小袖は伊作君のなんだね?」
「知らずに着てるのか?何があったか知らんが、他の男の衣を身に付けるなど、妬けるなぁ?」
雨戸を締め切って暗い中、壁に追い込まれて逃げ場がなくなる。
「ごめん仙蔵、これからはこういう事は控えてくれるかな」
そう話せば仙蔵の顔から余裕たっぷりの笑みが消える。
「何故そんな事を……まさか、恋人が出来たのか…!?」
こくりと頷くと、溜息混じりにそうかと小さく呟いて私から距離を取った。
「仙蔵は好きだと言ってくれたのに、ごめんなさい」
「分母が大きいからな、元より可能性は低かったが……。それで、相手は伊作なのか?」
「ううん。八左ヱ門だよ」
「んなっ…竹谷だと!?」
仙蔵の驚き具合。どうやら相手が八左ヱ門なのは想定外だったらしい。
「奴は奥手だと侮ったのが敗因か……。
文次郎に話したら三禁破りの上、三病患いと言われてしまうな」
「三病?」
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玉虫厨子(プロフ) - 雪見だいふくさん» わ〜ありがとうございます💓今はペースゆっくりですが更新頑張ります!! (2月4日 16時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
雪見だいふく - この作品めっちゃ好きです〜更新大変だと思うけど、頑張ってください!!!! (2月4日 11時) (レス) id: ebcac87da6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年12月29日 15時