其の弐 ページ16
暴風雨に晒されて段々と身体が冷やされていく。まだ十月初旬だというのに震えるほど寒い。私が“離れたくない”と言ったからか、それからは戻れとは言われなかった。
風の強さは変わらないのに、煽られて戸が再び外れそうになる回数が増えてきた。
「…大丈夫か?」
「平気だよ。八左ヱ門は?」
「俺もまだいける」
きっと二人とも強がりだ。私は寒さでかじかんで力が入らなくなってきた。あと四半刻も続けていれば私は戦力外になるだろう。きっと八左ヱ門だって似たような状況だと思う。
どれくらいの間耐えていただろうか。そしてこれからどれだけ耐えればいいのだろうか。
いよいよ手の感覚が無くなって、背中でもたれるようにして戸を押さえる。
「A、もう限界来てるんだろう…?」
「…八左ヱ門こそ」
「はは、さすがに冷えるな…。こっち来て」
暴風雨から護るように八左ヱ門の身体と腕に囲まれた。所謂“壁ドン”だが、今はドキドキするよりも安心感が勝った。
「…心なしか暖かい」
「最初からこうしてれば良かった。俺は大切なものを護りたいだけなのに、大切な人を辛い目に遭わせて。本末転倒だよ」
大切な人。そういえば佐武村で八左ヱ門にそう言われたっけ。どう大切かはその時は教えて貰えなかったけど…。
「私がそうしたんだから気にしないで。八左ヱ門を追いかけてきて後悔していないよ」
八左ヱ門が左手で首の後ろに手を回して抱き締める。私も、ごく自然に八左ヱ門の背中に手を添える。ふとそうしたいと思ったのだ。
「A、好きだよ。命の重さは皆平等だと思ってたけど、Aだけは特別だ。何よりも君を一番に護りたい」
「私も。皆のこと好きだけど、八左ヱ門への好きは特別みたい……」
少し距離をとって視線が交わると、八左ヱ門の視線が熱っぽくなった。不思議だ、さっきまで寒くて震えていたのに、二人の触れたところから熱が生成されているみたいだ。
「…俺と、恋仲になってくれますか……?」
「こ、恋仲……」
八左ヱ門とはとてもいい友人関係を築けてきたと思っている。友人ではなくなるのは正直少し惜しい。
けれど。
いつも周りを優先して自分のことは二の次の八左ヱ門。今日だって自分の身よりも生物達を優先してしまう、ちょっと危なげな優しさを持っている。
私はその分、八左ヱ門を優先してあげたい。一緒に居たい。彼のことが好きだから。
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玉虫厨子(プロフ) - 雪見だいふくさん» わ〜ありがとうございます💓今はペースゆっくりですが更新頑張ります!! (2月4日 16時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
雪見だいふく - この作品めっちゃ好きです〜更新大変だと思うけど、頑張ってください!!!! (2月4日 11時) (レス) id: ebcac87da6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年12月29日 15時