距離縮めたる雨の段 ページ15
台風の日に出歩いたことなんてほぼないから、この歩きづらさは想像以上だった。
雨が激しく、まるで
それでも生物小屋の入口に戸を押さえつける八左ヱ門の姿を捉え、何とか隣に辿り着いた。
「え!?A!?」
「手伝うよ!」
「どうして来た!?すぐ戻れ!!」
八左ヱ門を真似て、隣で戸を押さえつける。やはり八左ヱ門は私が来たことに怒った。
「戻らない!」
「何でだよ!?部屋で待ってろって言ったろ!?」
「私だって、行かないでって言った!!!」
「ッ!」
私がこんなに強く言い返すとは思っていなかったのか、一瞬怯んだように感じた。私もそんなに強く言うつもりはなかったけど、この暴風雨の中じゃ声を張り上げないと相手に聞こえない。
「…俺のことは心配しなくて大丈夫だから!」
「心配はしてるけど、それだけじゃない!」
「じゃあどうして出て来たんだよ!?オカ美が心配になったのか!?それなら俺がしっかり押さえているから──」
「八左ヱ門を一人で行かせたくなかったの!どうしてだか離れたくなかったの!!」
勢いのまま、少し恥ずかしいことを言った気がする。たぶん、こんな状況でもなければ言えなかった。
八左ヱ門の沈黙が辛い。自分の気持ちを押し付けて、後で気まずくなっちゃうかもしれないな…。突然離れたくないなんて言われたら困るよね。私、八左ヱ門より二つも歳上なのになんて子供っぽいんだろう。
呆れられるかもという恐怖、それに何故か痛いほどの切なさが相まって胸が締め付けられる。
ほろほろと勝手に何かの涙が溢れて、雨と混ざって流れていった。暴風雨の中で良かったと思った。
(なんなの、この気持ちは)
自分のよく分からない心境に混乱していると、突然八左ヱ門の腕が背中に回され、ぐっと力強く引き寄せられた。
思わず見上げると、八左ヱ門も私を見下ろしていた。息遣いまで感じられるほど顔が近くにあって、恥ずかしい筈なのに目が離せなくて、また胸がきゅうっと苦しくなった。
何か言いたげに彼の唇が開いたが、何か思うところがあったのか、それは再び閉じて、固く引き結ばれた。
「……話は後だ、今は手伝ってくれるか」
「っ、うん…」
心臓が煩い。私の情緒は本当にどうしちゃったんだろう?
67人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
玉虫厨子(プロフ) - 雪見だいふくさん» わ〜ありがとうございます💓今はペースゆっくりですが更新頑張ります!! (2月4日 16時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
雪見だいふく - この作品めっちゃ好きです〜更新大変だと思うけど、頑張ってください!!!! (2月4日 11時) (レス) id: ebcac87da6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年12月29日 15時