其の弐 ページ14
八左ヱ門は息を切らしてやってきた。本当に慌てて駆けつけたみたいだ。
「せ、生物小屋の戸が飛んできたって…!」
「これ、そうだよね…?」
雨戸を少し開けると隙間から覗き、雨戸を閉めてから言った。
「ああ、間違いない、生物小屋の戸だ」
「ど、どうしましょう…!?」
一平君が狼狽える。そうだよね、生物達が心配だよね…。
「心配するな一平、俺がチョチョイと直してくるから!」
「そんな!?危険ですよぉ!」
「無茶です竹谷先輩!この風です、屋根瓦が飛んで来たら無事では済みません!!」
「お前達、五年の実力をなめてるな?俺が飛来物を避けられないとでも思うか?」
そんな訊き方はずるい。下級生達は何も言えなくなってしまった。
「誰か応援呼びますか?用具委員長の食満先輩とか」
「先輩の手を煩わせるまでもないよ。お前達は部屋に戻って勉強でもしてろ。A、後は任せていいか?」
それはつまり、誰にも自分の後を追わせるなって事だ。
この雨風の中、たった一人で戸を固定して飛ばないように対策なんて出来ない。戸を嵌められてもそれが飛ばないように押さえているだけで精一杯だと思う。そんな事くらい八左ヱ門は分かっている筈だ。
「うん…」
「ん、ありがとう!」
雨戸に手を掛ける。その顔が笑顔なのは、周りに心配をかけさせまいとする八左ヱ門の思いやりだよね。
八左ヱ門の気持ちを汲むなら、この場は私も心配してないふりをしなくちゃならない。分かっちゃいるけど、私の右手が八左ヱ門の袖を掴んでしまう。
「……行かないで」
「!……ごめんな、A。生物達が待ってるから。Aも部屋で待っててくれるか?絶対無傷で戻るから!」
私の頭をひと撫でして雨戸を開ける。
「先輩、せめて蓑笠を…!」
「いや、この風だとあんまり意味ないかな。そんじゃ!」
とうとう暴風雨に飛び出していった。
「Aさん…大丈夫ですか?」
やだな、私が下級生達に心配されてるよ。
「うん。八左ヱ門は大丈夫って言ってた。それを信じよう。ほら、皆部屋に戻って勉強だよ」
「Aさんは?」
「私は雨漏り箇所がないかこの先の廊下も見廻ってから戻るから」
「分かりました」
下級生達は長屋の方へ向かい、私はその反対方向へ向かう。そして下級生の姿がみえなくなった頃、立ち止まる。
(…八左ヱ門、怒るかなぁ)
部屋で待っていてという言葉を無視して、私はそっと雨戸を開けた。
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玉虫厨子(プロフ) - 雪見だいふくさん» わ〜ありがとうございます💓今はペースゆっくりですが更新頑張ります!! (2月4日 16時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
雪見だいふく - この作品めっちゃ好きです〜更新大変だと思うけど、頑張ってください!!!! (2月4日 11時) (レス) id: ebcac87da6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年12月29日 15時