其の弐（清八視点） ページ6
私は先輩とAさんと共に自宅へと戻った。
「うわ、汚ったねえな」
先輩は私の脱ぎ散らかした服などを足で端に寄せて座り、やや乱暴に傷の手当てを始めた。
「男の一人暮らしなんてそんなもんですよ〜」
「Aさん、大丈夫かい？青い顔してるけど」
「──あ、はい…」
「暴れ馬は怖かったろ。自分に懐いていた馬なら尚更だ」
「いや、清八のだらしなさに青くなってんじゃねえか？」
「あはは、すみません〜」
親方と若旦那も駆けつけたが、二人だけは私を責めない。Aさんと私の様子を見て、何か勘付いているのかもしれない。
「ねえ、父ちゃん。おれと清八とAさんだけで少し話がしたいんだけど」
「ああ、そうしろ。清八、大事にな」
「あ、親方。待ってください。
Aさんと私の縁談の件ですが…」
「それならAから聞いたよ。残念だが仕方がない」
「いえ。受けるか辞退するかの二択ではなく、お友達からという形ではいけませんか？」
「……！！ そうかそうか！いやすまない、お前達に必要だったのはじっくり仲を深める時間だったんだな！性急に事を進めて悪かった！」
すっかりいつもの調子で、去り際にAさんの肩をぽんと叩いて去っていった。これでAさんも少しは居心地よく居られるだろうか。
「…清八。本当は何があったの？」
「厩舎に忍者が来ました。タソガレドキの…ざっと？とかいう」
「やっぱり…！Aさんは曲者が来る事を知ってたんですか！？それで縁談断ったり、一人で人目につかないところにいたんですか！？」
Aさんに詰め寄った。俯いてただ首を振っている。
「忍者は『たまたま来た』と言っていましたよ。Aさんが縁談を断った後ろめたさから『もうここを出たい』と発言したから姿を現した、といった感じですかね」
「私が軽率な発言をしたから…」
「いえ、無理に縁談を断らせた私の責任です」
「清八が断らせたの！？」
「Aさんの為を思ってそう発言したつもりが、大変に苦しめてしまう結果となってしまって、本当に申し訳ありません」
「やめて下さい！私が大人しく連れ去られていれば、清八さんは怪我することなく、不名誉も被ることなく、ただの日常を過ごせてたんです…」
「Aさんをどうしても行かせたくなかったんです。これは私の我儘です。だから気に病む必要は全くありませんよ」
ね？と頭を撫でると、俯き気味で小さく「はい」と返事をした。
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年10月11日 16時
