其の弐 ページ45
なんて跳躍だろう。ちょっと格好いいと思ってしまった。
「ふぇ！？清八さん！？出門票にサインを〜〜！！」
小松田さんの制止も聞かず、ただ馬が走り去る音が聞こえた。
「もう、清八さんったらまた出門票にサインせずに帰るなんてっ！」
小松田さんがぷりぷり怒っている。清八さんに出門票を渡したって、彼は読み書きが出来ないのだから結局は誰かが代筆しなければいけないのに。基本に忠実というか、融通がきかないというか…。
「…ふぅ」
ふと辺りを見渡せば見慣れた瓦屋根に
「何を一人で笑ってるんだ？」
頭上からこれまた懐かしい声がして見上げると、木の太枝に仙蔵がしゃがんでいた。
危ない、私は懐かしさのあまり忍術学園に「ただいま」と独り言を溢すところだったのだ。口にしなくて良かった。
「久しぶり、仙蔵！」
「ああ、久しぶり。随分楽しそうじゃないか？良いことでもあったか？」
「別に、忍術学園が懐かしいなって思ってただけだよ」
「ほう？ならばAも立派な忍術学園の一員だな」
仙蔵は地面に置いてあった二つの行李を持ち上げた。
「ああっ、いいよ」
「遠慮するな、どうせ行き先は六年長屋で同じなのだから」
「ん、ありがとう」
仙蔵の顔は漆喰同様、色白で眩しい。
「全然日に焼けてないね。夏休み前と変わらない」
「私は赤くなるだけで黒くはならないんだ。Aは少し綺麗になったな？」
「え？肌の手入れはそんなにしてないけどな」
「そうじゃない。女は恋をすると美しくなると聞く。誰に惚れた？」
「だっ誰にも惚れてないよっ！！変なこと言わないでよ」
「ならば、このように──」
行李を器用に片手で持つと、もう一方の手で私の顎を掬い顔をずいと寄せて来た。
「──男に言い寄られてときめいた、とか」
「そっ！！んなことないよ！」
思わず息が詰まった。
「フッ、顔が熟れた林檎のようだ」
そう言う仙蔵は余裕
顔面国宝の仙蔵にあんなに近づかれたら誰だって赤面すると思います！！
「もう、揶揄わないでよ…」
「すまない。しかし綺麗になったのは本音だ」
「…ふふ。それは悪い気しないから信じとく」
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年10月11日 16時
