懐かしの忍術学園の段 ページ44
「では、入門票にサインをお願いしまーす」
私が清八さんの分までサインしようとした時、その厚みに気がついた。下に何枚も紙が重ねてあって、捲ってみると忍たまの名前がいくつも書いてあった。
「ああ、それね。遠方から通う人もいるので新学期始まる五日前、つまり今日から忍術学園には戻って来れるんですけど、今回はやけに早く帰って来る人が多くって、朝から大忙しなんですよぉ」
「へえ、どうして遠方の人の為に学園を早めに開けてるんですか？」
「悪天候だと移動が出来なくなるので、遠くの人ほど数日余裕を持たせて早く出発するからですよぉ。例えば一年は組の皆本金吾君は相模からやって来るので、一番に帰って来ましたよ」
「なるほど！じゃあ同じ相模の喜三太君もそのうち来ますかねえ」
「はい、きっと。…あ、また誰か帰って来た！入門票にサインを〜！」
小松田さんは本当に忙しそうだ。
帰って来た人と小松田さんの邪魔にならないように少し奥の方へ移動した。
「清八さん。この夏休み中、たくさんお世話になりました。馬借としてもそうですし、それ以外のところでも。本当にありがとうございました」
「礼を言いたいのはこちらの方ですよ。Aさんと共に過ごす時間は私にとって宝物です。楽しい時間をありがとうございました」
「とんでもないです、お礼を言われる覚えは──」
ふと、清八さんの膝上の傷が目に入った。雑渡昆奈門を退ける際、馬に蹴られた傷だ。
「…痕、残ってしまいそうですね…ごめんなさい」
「ああ、こんなの。大した傷ではないですよ」
「でも痛かったですよね。怖かったですよね」
「そんなの、Aさんを連れ去られてしまうことを考えたら。それに、この傷が自尊心を高めてくれるんです。私は忍からAさんを護れたんだって。名誉の負傷ですから気に入っているんです。
だから、ごめんなさいよりありがとうって言って下さい」
「…はい！ありがとうございます、清八さん！」
「いえいえ！…それでは、名残惜しいですが私は行きます」
「どうか、道中お気を付けて…！」
清八さんは馬に跨ると、ハッと短く発声して、馬に合図を送り、勢いよく駈け出した。しかし正門は先程閉じられてしまっている。
「あっ！待って、まだ門が閉じて──」
次の瞬間、馬は嘶いて強く地面を蹴ると、清八さんを乗せて忍術学園の塀を飛び越えてしまった。
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年10月11日 16時
