其の伍(照星視点) ページ36
Aは私の隣に腰を下ろした。
「照星さんは、今までたくさん裏切りを目の当たりにしてきたんですね。信じるのを躊躇うのは無理もないでしょう。それが突飛なことなら尚更です。そんな人が確たる証拠もなしに私の言葉を受け入れるのは勇気が要るでしょうね」
「どうして私にそんな言葉を掛けられる?私は、君に心を病ませるほど酷い仕打ちをしたのだぞ」
「はい。人にずっと疑われるのって、たった数日だけでも思った以上に辛かったですけど…。でも、急にどうでもよくなっちゃいました」
随分と晴れやかな顔をしている。
「どうしてですかね、あんなに照星さんに謝らせてやるって思ってたのに。ほっとしたから?疑いが晴れたから?とにかくスッキリしました!」
私はあれほど疑ってかかったというのに、私の過去を知り、仕方ない事だと言わんばかりだ。あまつさえ彼女は私に微笑みすら向けてくれる。私よりずっと大人じゃないか。
「…何か償いをさせて欲しい」
「償い、ですか?」
「何かしないと私の気が済まない」
「そう言われましてもねぇ…」
「私は団蔵君から若太夫に宛てられた暗号文の解読を手伝って君が未来人である事を知った。タソガレドキ忍軍から狙われている事も。良ければ忍術学園に帰る日、私も護衛に付こう。勿論他の事でも構わない」
「うーん、それじゃあ照星さん、今お金持って来てます?」
「ああ。幾ら要る?」
懐から銭袋を取り出すと、首を振った。
「じゃなくて。私、甘味が食べたい気分なんですけど、付き合ってくれませんか?」
「本当にこんな事でいいのかね?」
Aは私の隣でみたらし団子を頬張っている。
「ふぁい。ふぁへはふぁっはんえふ」
「……咀嚼中に話しかけた私が悪かった」
Aは三本の団子を平らげた。視線は四本目の団子に向けられているが、手に取るか迷っているようだ。
「一度に食べては腹を壊すぞ」
「うっ。そうですよね。壊さなくとも太りますしね」
「いや、肉はもう少し付けた方がいいと思うが」
するとAの顔はかあっと赤くなった。
「……? どうして赤くなる?」
「だって、私の裸見たじゃありませんか。そうですか、そんなに貧相でしたか」
「なッ…!! なんて事を言うんだ君は…!!」
「え?言ったじゃないですか。くノ一の身体に興味はないって」
「くノ一を襲う趣味はないとは言ったが…いや。この話は外で話すのは良くない…」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年10月11日 16時