其の肆 ページ35
「私が悪かった。許せとは言わないが、村には予定の期日まで居てくれ」
昨日、八左ヱ門と話した後からずっと照星さんに謝罪させる事を目標としてきた。それが叶った暁にはしたり顔の一つでもしてやろうと思っていた。
なのに、ちっとも嬉しいと思わなかった。いつも涼しい顔をしている照星さんの焦りと何かが混じった顔は、全く私の拝みたい顔ではなかったようだ。
「…もう構わないです」
「すまない……。言い訳がましく聞こえるかもしれんが、ひとつ昔話を聞いてくれないか?」
私は返事をしなかったが、それを承諾と受け取った照星さんは、昔のことを語り出した。
「私が石火矢衆の一人として城勤めをしている時だった。ある時、私は謀叛の企てを知ってしまった。一部の石火矢衆が起請文に連署している場面に
忠誠心を持って勤めていたが、ここで拒否すれば口封じのため殺されてしまう。私は愚かにも自分の命を優先した。
謀叛は成功し、私もそれなりの知行を与えられたが、居た堪れなくなり、逃げるように城を去った」
私の手首を掴んだまま、話は続く。
「それから何度か主君を変える中で、幾度となく
私は憤慨すると同時にもう居場所なぞ作らんと誓い、長年一人で狙撃手稼業を続けてきた。そこで昌義殿に目を掛けて貰ったのだ。何度か断ったが、驚くほど熱烈な勧誘だった。だがもう破滅を見たくなかった私は、客分として、という条件で佐武に腰を据えることとなった。
そのうち、若太夫が忍術学園に入学すると、私も火縄銃の特別講師として招かれ、関係が広がった。いつしか此処はかけがえのない居場所となっていた。
これを壊したくない一心で、お前のことなどひとつも考えずに否定を続けてきた。孤独を知る者として、手を差し伸べてやらねばならなかったのに…」
ここで私の手首は解放された。
「私に向けた強い憤りの目。それはまさしく昔の私と同じ目だった。結局のところ、私は奸臣達と同じ穴の
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年10月11日 16時