けりをつけるの段(照星視点) ページ32
「じゃあな、A。また数日後に学園で」
「うん。本当にありがとう」
「もう礼はいいって!」
若太夫が薬師の代わりに忍術学園の竹谷君を連れて来て、またどこかまで馬で送っていくようだ。彼も籠絡された一人なのだろう。
Aの表情は晴れやかだ。竹谷君もよくあの短時間でここまで立て直したものだ。
その笑顔も、私の姿を見つけるとすぐ曇ってしまったが。
「……。 照星さんって本当ずっと私のこと見張ってますね」
「見張らねば何をしでかすか分からぬからな。煙硝蔵に付け火でもされたらたまったものではない」
「そんな事したら私が真っ先に死にそうですね。私がくノ一ならそんな捨て駒みたいな忍務、まっぴら御免ですよ」
何かを言われても耐えて来たAが、ここに来て口答えするようになった。竹谷君の入れ知恵だろうか。
「竹谷君に私から虐げられていると報告したか?」
「ご安心を、“照星”のしの字も出しておりません」
「どうして出さなかった?彼なら私に直接抗議するくらいのことはしただろう」
「虎若君はあなたのことを尊敬してやまないのに、裏表のあることをしていると知ったら悲しむかもしれないでしょう。
あなたこそ、私がくノ一だと疑っているのに佐武衆の誰にも話していないのはなぜです?」
「信じていた者がくノ一だと知れたら今後村全体が疑心暗鬼に陥ってしまう」
「嫌な役目をするのは客分であるあなた一人で十分という訳ですか。格好良いですね。私が本当にくノ一だったらの話ですけど」
「……………。」
私が返答せずにいると、身体が触れそうな位置まで近付き、私の顔を見上げた。
「明日、あなたとお話しする時間を下さい。出来るなら村を出て、完全に二人きりで話したいです。不毛なやり取りにけりを付けましょう」
ここ数日曇っていた瞳は光を取り戻し、爛々と輝いていた。
元来この者の顔立ちは美しいのだ、これが挑発でなければ頬の一つも撫でたかもしれない。
「良かろう。何を企んでいるか知らんが、サシでやり合えるならこちらも好都合」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年10月11日 16時