其の肆 ページ30
私は意を決して口を開いた。
「九月頃、オーマガトキとタソガレドキの戦が落ち着いたら、私を攫いに来るって、夜間護衛が始まってすぐくらいに言われたの」
「タソガレドキ忍軍組頭にか?」
「うん」
「どうして言わなかった?」
「…その話を聞いた忍たまは、消すって言われたから…」
「そっか、俺達のことを思って言えなかったんだな。他に知っている人は?」
「小平太だけ知ってる」
「七松先輩か。うん、分かった!教えてくれてありがとうな!俺と七松先輩で絶対に護ってみせるから!!」
私を安心させるように力強く笑う八左ヱ門に、私の心境は安心感と罪悪感とがぐちゃぐちゃに入り混じった。うまく笑えないでいる私を、隙間なく抱き締める。
「……私、またこの話をしてしまった…」
何度も「大丈夫!」と言ってくれるから、ついこの口が話してしまった。
「俺は嬉しいよ、一つ信頼を勝ち得たみたいで。
七松先輩は強いけど、奇襲をかけられたら一人で護りながら戦うのは大変だから。俺みたいなのでも居た方が先輩も動きやすくなると思う!Aが話してくれたお陰だな!」
小平太と八左ヱ門は優し過ぎる。だって、私の話を聞いたことで命を狙われるかもしれないのに、「話してくれてありがとう」「Aのお陰」って感謝するんだ。
「でもごめん、やっぱり言わなきゃ良かったって後悔もある…。二人が怪我を負ってしまうくらいなら、私は黙って連れていかれた方がずっといい…」
「そういう気持ちになるのは分かるけどさ、考えてもみてくれ。タソガレドキと俺達でAの取り合いしてるだけなんだよ。それぞれがAを欲しているから。
な?別にAが気に病む必要なんてどこにもないだろ?」
私の負の感情が氷の塊だとしたら、八左ヱ門はそれを溶かしてくれる、爽やかな初夏の太陽のようだ。
「どうしてそこまでして私と一緒に居たいの…?」
「えっ!?そ、それはさぁ…、Aのことが大切だからで、どう大切か説明するのは今じゃないんだってば…」
「友達だからじゃないの?」
「いや…うん…それ以上っていうか。時が来たらちゃんと言うから」
「……八左ヱ門、顔が真っ赤だけど…?」
「あ、暑くってさ!ほら、俺毛量があるからさ、夏はほんと参るよ!!」
襟を掴んでパタパタと扇いだ。
58人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年10月11日 16時