其の参 ページ24
朝餉を食べ終えると、照星さんに洗濯を指示された。
別にそれは構わないし、むしろそういうお手伝いはさせて頂かないとこちらの気が済まないのでありがたいのだけれど、無表情で腕組みをしてじっとこちらを見ているのが、粗を探されているようでやりづらい。
「──洗濯、終わりました」
「宜しい。では暫し休憩」
井戸へまっすぐ駆けて冷えた水を汲んで一気に飲み干す。そしてまた照星さんの所へ戻り、今度は長屋の廊下の水拭き。まるでお寺の廊下の雑巾がけのように、走りながらかける。そうじゃないと日が暮れちゃうから。
「雑巾がけ……ハァ、終わりました……」
「暫し休憩」
また井戸へ行って、水を飲んで、今度は火照った顔を冷やすのに顔も洗って、戻る。
今度は照星さんの自室の掃除を、とのこと。
いやー…さすがに大した休憩もなく夏場にここまで動くとクラクラする。
「お、お部屋のお掃除、終了、しました…」
「暫し休憩」
井戸の水を人目も憚らずガブガブと飲んでいたら、兵士さんにふらつきを心配されてしまった。ちょっとミネラル不足かもしれない。
厨へ行って、ひとつまみ分だけ塩を分けてもらって舐めた。
正直これ以上働ける気がしなくて照星さんの元へ戻りたくなかったのだが、意を決して戻った。
「君は本当に優秀だな」
「!!!」
そこで初めてお褒めの言葉を頂けた。やっと報われた。頑張って良かった。
「ありがとうございます…!!」
「それでいて見目が良く、愛嬌があり、人に字を教えられるだけの教養を有し、人心掌握術に長けている…まさにくノ一の鑑」
「………へ?」
今、私に向かってくノ一って言った?忍術学園から来たからそう思われたのかな?
照星さんは障子戸を引いて自室を閉め切った。縁側がある分軒が長く、夏だというのに室内は不気味なほど薄暗くなった。
「何が目的だ?火器の数でも数えに来たか?」
「目的?あの、一体何の話をされているんです?」
照星さんは私を目にも留まらぬ速さで畳へ強く押し倒し、親指と人差し指で喉を挟み込むように宛てがった。
「……しょう、せいさん……?」
今の所は呼吸は妨げられてはいないが、眼前に迫った照星さんの威圧感に上手く息が出来ない。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年10月11日 16時