其の弐 ページ23
「Aよ、昨晩はよく眠れたか？」
朝餉の席で昌義様が私に問いかけた。
「はい、朝までぐっすりでした」
「それは良いな。儂なんて最近は一晩で二、三回ほど厠に起きてしまう。まるで爺だな！」
「もー、父ちゃんてば朝餉の時に厠の話しないでよ！」
「別に大便の話ではないのだから構わんだろう」
「今言った！！大便って！もう本当最悪！」
「いちいち煩い！！朝餉くらい黙って食わんか！！」
「最初にAさんに話しかけたのは父ちゃんです〜！！」
「なにおう！？」
昌義様は厳格なお方だと虎若君に聞いていたけど、こうして見る限りはお茶目な人だなぁと思う。
「ふふっ」
「ほらー見てよ、Aさんに笑われてるよ！恥っずかしい！」
「A！別に『厠』くらい言ったって構わんよなぁ！？」
「はい、構いません」
「大便は無しですよね！？」
「さすがにちょっと気にする方もおられるかも…。私は構いませんが」
「厠の話は虎が掘り下げたんだ、虎が悪い」
「父ちゃんが悪い！」
そんな会話が繰り広げられていても、照星さんは黙して味噌汁を飲んでいる。庄左ヱ門君くらい冷静だ。最後の一口を飲み終えると、未だ言い合いをする親子に「昌義殿」と声を掛けた。
「ん、なんだ照星殿」
「逗留中、Aの身柄を私にお預け頂けませんかな」
「へ」
余りに唐突に想定外な事を言われたので気の抜けた声を発してしまい、慌てて口を閉じた。
「何故？」
「身の回りの事を手伝わせるのに丁度良いと思いまして」
「それは構わんが、そんな事を言い出すとは珍しいこともあったものよ。A、この短時間で照星殿に気に入られるとは、噂通りの人心掌握術よ！」
「噂、ですか？」
「うむ。忍たまが
「それは虎若君が買い被り過ぎています！」
「そんな事ありませんよ！生物委員会委員長代理の竹谷先輩だって、今までは生物に首っ丈だったのに最近は委員会活動中に遠くをぼーっと見てることもあって、そんな時は視線の先にはAさんがいるんですよ〜！」
「そんなのたまたまだよ…」
「百歩譲ってたまたまだったとして、七松先輩にもデモシカにも求婚されてますよね！？」
「それはそうなんだけど。せめてさん付けしようね…！」
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年10月11日 16時
