清八の気持ちの段 ページ20
今日は清八さんと同じ部屋で寝ることとなった。
二人分の寝具と衝立がお借りできたので全く問題ない。ただ、やはり清八さんは夕刻から何か考え込んでいる様子で気になる。彼には明るく笑っていて欲しい。
「あの、清八さん。何か考え事ですか?」
「……そうですね、ちょっと」
「私で良ければお話聞きますけど」
話すかどうか迷った後、ぽつりぽつりと語り出した。
「山賊に襲われた時、あれはどうするのが正解だったのかと…」
「私の行動は悪手でしたか?」
「いえ。合理的だと思います。思いますが…」
清八さんはそこで言葉を一度切った。言葉が口に出かかるけど出せない。そんな様子で何か葛藤しているみたいだ。
隣へ腰を下ろして清八さんの背中を撫でると、一気に感情が込み上げたようで、両手で顔を覆ってしまった。
「私が、男として余りにも不甲斐無く…!私の方が力も強く、歳も五つも上だと言うのに、Aさんに庇われて…」
あの時、私が清八さんの男としてのプライドを傷付けてしまったんだ。
背中をさする手を引っ込めた。
「申し訳ありません。出過ぎた真似をしました。清八さんとコレステロールが無事なら何とかなるんじゃないかと、そんな程度の浅はかな考えでした」
「いいえ、Aさんは正しかったと思います。そして照星さんはたった一発の発砲で相手を蹴散らしてしまいました。唯一私は、何も、出来なかった…ッ」
とうとう肩を震わせて泣き出してしまった。
相手の方が人数が多かったし、相手は武器防具を持っていた。一方の清八さんは武器も防具もなく、更に手足が剥き出しの無防備さ。相手に手も足も出ないのは当然で、恥じる事も何もないと思う。
しかしはたと思い出す。この乱世は弱肉強食の世界だ。いくら相手の道理が通らなくたって、大義名分が無くたって、弱者は強者に従うか虐げられるしか道は無い。あの場で一番の弱者は戦うことも出来ず、交渉カードも何も出せなかった清八さんだった、という事になるのだろう。
「私は、好いている人が目の前で連れ去られてゆくのを、ただ見ているだけしか…」
「えっ…?」
「好きなんです。恋心を自覚していなかっただけで、ずっとあなたに惹かれていたんです。曲者のあの一件以来、私はAさんを異性として見ています。
親方から縁談の話が出た時に『断って下さい』ではなく『受けて下さい』と言っていたら、今頃関係はもっと深まっていたのかもしれないと思うと悔やまれます」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年10月11日 16時