いざ、佐武村への段(団蔵視点) ページ11
「ええ〜っ!?行っちゃうのぉ!?」
「嫌だ!行ったら嫌いになるよぉー!」
二週間はあっという間で、Aさんは今日加藤村を立つ。持ち前の愛嬌と優しさで密かに村のちびっ子の人気を集めていたAさんは、身動きが取れないくらいに囲まれている。
「五郎太〜弥九郎〜八郎、孫六、キクにヤエ〜〜!私も寂しいけど行かなきゃなんだぁ…」
「清八にいちゃんと結婚するって約束したでしょー!?」
「ん!?約束はしてないけどね!?」
今のうちに清八に書状を渡す。久々知先輩から渡された書状の内容に、先日起きた騒動の内容を加えて忍者文字で
「清八、これ虎若に渡して」
「はい、分かりました」
清八はしっかりと懐へしまった。
「ねえ、Aお姉ちゃん。また来てくれる?」
ちびっ子達の問いには答えず優しく微笑むと、胸にとんっと人差し指を置いた。
「私はずっと皆の心の中にいるよ」
「こころ?」
「そ。皆が辛い時、私はいつも心で寄り添っているからね。会いたくなったら胸をさすってみて」
「…うん、わかった!」
「ふふ、いい子」
「Aちゃーんっ!」
見送りに遅れた母ちゃんが走って来た。
「もう、母ちゃん何してたの!?皆待ってたよ!」
「ごめんね。ちょっと荷物を纏めててね」
行李を開けると、小袖が何着か入っているようだった。
「これ、私が昔着ていたものなのだけど、Aちゃんにどうかなって。旅をするのにこんなに持たせちゃ悪いかなと思ったんだけど、やっぱりあなたに着て欲しくって」
「そんな思い入れのあるものを頂く訳には…」
「いいの。私の代わりにたくさん着て欲しいの。勝手だけど、私はAちゃんのこと、娘のように思えてならないのよ。この場だけは、あなたの母親でいさせてくれない?」
涙脆いAさんは涙ぐんで母ちゃんを抱きしめた。
「…ありがとうございます、
「またいつでも戻っていらっしゃいな、A」
それを心底羨ましそうに父ちゃんが眺めていた。
「くぅ〜!いいなぁ、俺も父上と呼ばれたい…」
「それじゃあ清八、頼んだよ。Aさん、また休み明けに学園で!」
「うん、団蔵君、皆さん、お世話になりました!…父上も!」
「お!おお!元気でなぁ!また来いよお〜っ!」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年10月11日 16時