其の伍 ページ48
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です…!お手を煩わせてすみません」
「いえこのくらい。昨日陸酔いの時に海水を運んで頂いたお礼です」
蜉蝣さんは右手に蛸の入った籠を、左手は私の右脇辺りを支えながら歩いている。
何故私が支えられているか?
それは小袖のまま海へ入ったから水を吸ってとても重くなり、しかも肌にビッタビタにくっつき、非常に足捌きが悪くて歩きづらいからである。男性のようにたっつけ袴を穿いていたなら、どんなに歩き易かっただろうか。
浜に誰もいなければ小袖の裾を捲って歩くのに。
「どうした、海に落ちたか?…いや、髪が濡れてないから故意に入ったな?」
通りがかった義丸の兄貴がもう片方の脇を支えてくれる。
「ありがとうございます。蛸のヌメリが身体と小袖についたので、小袖ごと海に入りました」
「うちの紅一点は繊細なんだか豪快なんだかよく分かんないねェ」
「あはは。さっきお風呂は入ってしまったので」
「風呂なんて褒美にちぃと覗かせるのを許してやればいくらでも沸かしてくれるだろ」
「義丸…」
蜉蝣さんが優しく諌める。まだ出会って間もないけれど、蜉蝣さんはいつでも本当に紳士的。船では四功の一人で、周りからの信頼も絶大。私からしたら完璧な人間。
ただ一つ難点があるとするならば、陸に上がると酔ってしまう典型的な海の男体質なことくらいだ。陸酔いは海の男の勲章の一つとなっているらしいが、ご本人も苦しそうだし、そんなに吐いてしまっては食道も歯もボロボロになってしまうんじゃないかと少し心配だ。
「うぷっ…」
あー!思ってたそばから!
◆
お二人に水軍館まで送ってもらい、黄色の小袖に着替えた。丈の短い馬借スタイル小袖は今日洗濯して干しているし、これを汚したら替えがないので気をつけなければ。
忍術学園に戻ったら事務の仕事を頑張って
…いや、夏休み終わったらタソガレドキの忍組頭が連れ去りに来るんだった。
唯一事情を知る小平太は、夏休み終わりから護衛してくれるって言うけど、四六時中の護衛なんて無理だし、そのせいで怪我したら嫌だから巻き込みたくはない。
この戦でタソガレドキが負けてくれたら良いのに。
「あのー、Aさん?」
気付いたら私は館の厨まで来ていて、白南風丸さんに顔を覗き込まれていた。
「あ、はい?」
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玉虫厨子(プロフ) - 炭酸さん» わ〜〜!めちゃくちゃ嬉しいコメントありがとうございます!!私もタカ丸さん出てくる場面は筆が走ります!まだ先の話になりますがいつかはタカ丸ルートも書きたいので、どうか気長にお待ち頂ければと思います。 (9月21日 8時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
炭酸(プロフ) - ああああああ面白すぎて一気に読んでました!!最高すぎます、神はここにいた、、、特にタカ丸君が出てきてくれる作品を今だに出会えてなくて、それがやっと出会えて!!しかも神作で!!!本当ありがとうございます!!大好きです!! (9月15日 2時) (レス) @page30 id: 5dbdfb3851 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - れなさん» て、天才…!?恐縮です…!お気に召したようで私も嬉しいです。完結まで宜しくお願い致します! (9月9日 2時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
れな(プロフ) - 文才天才すぎます、、めちゃくちゃ好きです、ときめきも笑いも盛りだくさんでとっても好きです、、これからも更新楽しみにしてます!完結までぜひついて行かせてください。 (9月8日 15時) (レス) id: 5c55cc0d78 (このIDを非表示/違反報告)
イリア(プロフ) - コメ返ありがとうございます!鹿之助さんや清八さんなど他ではなかなか拝む事が出来ないキャラを出して下さるのもすごく感激です!キャラが出るたびワクワクして読ませて頂いてます!どうか玉虫様のご無理のないペースでお待ちしてます、これからも応援しています! (9月7日 23時) (レス) id: 97fc43e259 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年9月4日 4時