其の弍(蜉蝣視点) ページ45
「ごめんね、お二人ともあまりにも引き締まったいい身体だったから直視できなかった。早いとこ慣れるね」
Aさんはさらっとそんな事を言ってのけた。不意に褒められてこちらも照れ臭い。
「…行こう」
「あ、はい!」
俺達は入江の桟橋からざぶんと飛び込んだ。
蛸壺漁の手伝いを重に頼んだのには理由がある。重は舳丸と同様に水練の者としてよく潜っていて蛸壺の仕掛け場所は熟知しているし、何より潜水が達者で安心感があるからだ。
一つ目の蛸壺は何もいない。息継ぎをしてから二つ目の蛸壺へと泳ぎ寄る。
…が、これもいない。息継ぎに上がると重も同じタイミングで上がってきた。
「どうだ、そっちは?」
「今のところは入っていませんね」
「そうか」
今日は蛸が大好物なAさんが見ているんだ。頼む、最低でも一匹は入っていてくれ…!
祈りが通じたのか、三つ目の蛸壺には蛸がいた。
Aさん、一体どんな反応をするかな。キャーキャー喜ぶかな、それとも生きた蛸は気持ち悪いと敬遠するかな。
桟橋にゴトリと蛸壺を置き、海から上がるとAさんが駆け寄る。
「いたんですか!?」
「ええ、いましたよ。ほら」
真蛸がチョイ、と壺から足を出した。
「本当だ!」
取り出すと、歓声を上げて喜ぶ。その顔が見られて良かった。
「Aさん、ちょっとだけ後ろ向いていて下さい」
「え?はい」
Aさんが後ろを向いた瞬間、蛸の頭部を反転させて内臓を取り出し海に放った。
「もういいですよ」
「??」
「締めたんですけど、あまり見たくないかと思いまして」
「それはお気遣いありがとうございます」
「よいせっと」
重も蛸壺を桟橋へと持って来た。
「あ、蜉蝣の兄貴んとこもあったんですね!」
「ああ、二杯あれば蛸飯くらいはいけるな」
「そうですね!」
重は何の配慮もなくAさんの目の前で締めた。
「ギャッ!?」
「あ、ごめん!」
蛸壺はまだあるので、締めた蛸は籠に入れておき、再び潜る。昼餉には足りるのでもう獲れなくても大丈夫と思うとこちらも気が楽だ。
「きゃあ!」
息継ぎの際、Aさんの悲鳴が聞こえた。
「Aさん!?」
慌てて戻ると、Aさんの腕に蛸が絡みついて離れないようだ。
「大丈夫ですか!?」
「籠から逃げだそうとしていたので掴んだら、吸盤がくっついちゃって…!」
どうやら、締めきれていなかった様子。
「凄い力で、取れないんです…!」
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玉虫厨子(プロフ) - 炭酸さん» わ〜〜!めちゃくちゃ嬉しいコメントありがとうございます!!私もタカ丸さん出てくる場面は筆が走ります!まだ先の話になりますがいつかはタカ丸ルートも書きたいので、どうか気長にお待ち頂ければと思います。 (9月21日 8時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
炭酸(プロフ) - ああああああ面白すぎて一気に読んでました!!最高すぎます、神はここにいた、、、特にタカ丸君が出てきてくれる作品を今だに出会えてなくて、それがやっと出会えて!!しかも神作で!!!本当ありがとうございます!!大好きです!! (9月15日 2時) (レス) @page30 id: 5dbdfb3851 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - れなさん» て、天才…!?恐縮です…!お気に召したようで私も嬉しいです。完結まで宜しくお願い致します! (9月9日 2時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
れな(プロフ) - 文才天才すぎます、、めちゃくちゃ好きです、ときめきも笑いも盛りだくさんでとっても好きです、、これからも更新楽しみにしてます!完結までぜひついて行かせてください。 (9月8日 15時) (レス) id: 5c55cc0d78 (このIDを非表示/違反報告)
イリア(プロフ) - コメ返ありがとうございます!鹿之助さんや清八さんなど他ではなかなか拝む事が出来ないキャラを出して下さるのもすごく感激です!キャラが出るたびワクワクして読ませて頂いてます!どうか玉虫様のご無理のないペースでお待ちしてます、これからも応援しています! (9月7日 23時) (レス) id: 97fc43e259 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年9月4日 4時