其の弍 ページ10
利吉さんに頂いた小袖を纏い、姿見に自身を映す。
上品な小袖、上品な髪……
「これが世に言う、馬子にも衣装ってやつ!身につけた物によって自分の身分やら魅力やらが底上げされた気分!」
有平糖購入によりすっかり軽くなった銭袋と手拭いを懐に入れ、五年長屋へ続く廊下を渡る。
「もしかして、Aか……?」
背後から声が掛かる。この声は…
「八左ヱ門!」
「その格好…!」
「利吉さんにお仕立て頂いた新しい小袖だよ。今から町に行くの」
「そ、そうか……」
八左ヱ門は気まずそうに目を逸らす。
「この時代の人から見たら変かな……?」
「ッいや!?違う違う!その逆で……むしろ着ていって欲しくないくらい似合ってる」
「着て欲しくない??何でよ??」
「いや…。ここに来たって事は、五年の誰かと行くのか」
「うん、勘ちゃんと」
「勘右衛門かぁ……いいか、あいつは自然体で女たらしみたいな事するから、嫌だったらきちんと言うんだぞ!」
両肩をガシッと掴まれて真剣に心配する八左ヱ門の顔が迫る。
はい男前顔面四つ目〜〜!!
「はーい、そこまで!」
勘ちゃんが音もなく現れて、八左ヱ門と私の顔の間に手を差し込んだ。
「朝から五年長屋で接吻ですか〜?八も大胆ですね〜?」
「ち、違うわ!!」
勘ちゃんは改めて私の全身を隈なく見ると、にっこり満面の笑みを浮かべる。
「今日のA、すっごい可愛い!!二人で町歩きできるなんて、俺幸せだなぁ〜〜」
「はぁ!?Aはいつだって可愛いっつーの!」
八左ヱ門はなぜかご立腹の様子。
「あ、ありがとう…。八左ヱ門に言われるとちょっと恥ずかしいな」
「えっ!俺は〜!?」
「ごめん、勘ちゃんはやっぱり本心かどうか分かんなくて…」
勘ちゃんは分かりやすく落ち込んでしまった。そして瞳を潤ませて訴えかける。
「俺、Aに嘘ついた事あった?」
「ないよね!ごめんね……!」
「お詫びに接吻してくれる?」
「それはできないけど!」
「ん、じゃあ今日の目標は接吻に決定!」
「はぁ〜!?接吻だとぉ!?そんな事言うなら町になんて行かせられねえなあ!?」
「何でダメなの?八左ヱ門も接吻したいでしょ?思った事言うか言わないかの違いだよ?」
「ばっ!俺は…!!」
愛染明王よろしく肌を真っ赤に染め、忿怒の形相で、何か言いたげに私達を見るが、やがてぎゅっと目を瞑る。
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玉虫厨子(プロフ) - 澄香さん» コメントありがとうございます!需要あってよかったです!! (5月8日 6時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
澄香 - いけいけどんどん!!!出茂鹿之介の需要ありまくりです!!!! (5月8日 1時) (レス) @page50 id: b225fd04a2 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - あもさん» ありがとうございます💓 (12月18日 9時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
あも(プロフ) - ヤバい/// 出茂鹿・・・好きッ♡♡♡♡♡♡♡♡ (12月18日 8時) (レス) @page48 id: 769dab171c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - あーちゃんさん» ありがとうございます! (9月4日 4時) (レス) @page50 id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月21日 7時