其の参(仙蔵視点) ページ41
文次郎が目元を潤ませ、出入り口に手をかけて寂しそうに呟くので私の腹筋はしばらくの間崩壊した。
「はぁ〜〜可笑しかった。まるで祝言前夜の父親だったな」
「酷いじゃないか。事情を知らなければ誰だってそう思うだろうが…」
「いや、すまん。急ぎで伝える暇がなかったものだから」
食堂の外でひとしきり笑って、腹筋を落ち着けてから食堂へと入った。食堂内は既にやかましいので私の笑いに気づいた者は居ないと思う。
座る場所が、Aとデモシカさんの座る卓しか空いていない。なんて事だ、この至近距離で笑いを辛抱できるだろうか。
「出茂鹿之助さん、こちら宜しいですか?」
「ああ、どうぞ」
努めて冷静に彼の隣に座り、他の五つの卓を盗み見る。
……竹谷が泡を吹いている。
実際は含んだ味噌汁を飲み込めず、放心状態で上を向いて息を吐き続けたため泡立ったとみられるが、口が半開きなので鉢屋が面白がって隙間からおかずを追加している。いや死ぬぞやめてやれ。
浜は唇を噛んで悔しがり、田村は歯軋りしながらアイドルらしからぬ顔で睨みつける。
久々知は寸鉄を構えているし、尾浜は箸を寸鉄に見立てて握っている。
伝七は声を上げて泣き、卓に突っ伏している。藤内はAが嫁ぐ際の予習をしてなかったとかで狼狽えている。こら作法、落ち着きなさい。
大きな音がしたと思えば、今し方食堂に入って来た富松が二人を指差して腰を抜かして尻餅をついていた。
(仙蔵、皆にこっそり教えてやった方がいいんじゃないか?)
(それも難しかろう。なんせ我々はご本人の隣に座っているのだから)
矢羽音で向かいの文次郎と会話するが、笑いを堪えての矢羽音はなかなかに難しいと今日初めて知った。
「…なあAさん。私は忍たま達に嫌われていると自覚はしているが、この注目ぶりはそれでは説明が付かないと思うのだが」
「それはですね…あの日、裏庭に一人の忍たまがいたらしいんです…」
「それはつまり、私の求婚の言葉を聞かれた上に、それをバラされたと?」
彼は今どんな気持ちだろう。こっ恥ずかしいだろうな。
「バラしたと言うか、私が小袖に着替えてお見送りに行くのを、嫁ぐものと勘違いして話してしまったようです」
「…そうか…ならば私はAさんを迎えに来たものと思われているのか。それならこの妙な殺気も空気感も合点がいく」
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玉虫厨子(プロフ) - 澄香さん» コメントありがとうございます!需要あってよかったです!! (5月8日 6時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
澄香 - いけいけどんどん!!!出茂鹿之介の需要ありまくりです!!!! (5月8日 1時) (レス) @page50 id: b225fd04a2 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - あもさん» ありがとうございます💓 (12月18日 9時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
あも(プロフ) - ヤバい/// 出茂鹿・・・好きッ♡♡♡♡♡♡♡♡ (12月18日 8時) (レス) @page48 id: 769dab171c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - あーちゃんさん» ありがとうございます! (9月4日 4時) (レス) @page50 id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月21日 7時