其の参(きり丸視点) ページ34
花売りが盛況してきた頃、Aさんが男に妙な絡まれ方をしていて気になった。
「あなたが、私の初恋の人によく似ているんです。彼女がたった五つの頃でしたけど、突然姿を消してしまったんです。きっと人攫いに遭ったんでしょうけど、生きていればちょうどあなたくらいだ」
「それは、辛いことをお聞きして申し訳ありません…」
よくよく聞いてみると口説いている訳ではなさそうだ。だけどなかなか重い話題で、Aさんは優しいから無碍にはできないだろう。
Aさんは俺達の中で一番優秀な売り子だからこの忙しい時に長々と話し込まれると困る。折を見て事情を知らないふりをして介入しようと考えた。
「とうに吹っ切れたと思っていたんですが、あなたを見てまだ引きずってることに気が付きました。久しぶりに妹と一緒にAの実家に花でも持って行ってみようと思います」
「え?今、Aって…」
「ああ、彼女の名前です。どうかしましたか?」
「いえ、偶然が重なることってあるんだなぁと」
男はもしや、と思ったのだろう。Aさんの両肩を掴み、固唾を飲んだ。
「どんな偶然です!?」
「私の名前も──…「ちょっと
「…え?ごめんね、今ちょっと…」
「妹のきり子でぇす!姉が何かご無礼致しましたぁ?」
「い、いや。急に掴みかかってしまい、すみません」
「いえ…あの、お客さん、」
「お姉ちゃんのお仕事はお話することじゃないでしょ!?」
「ご、ごめんって、ちゃんと売るから…」
Aさんは後ろ髪引かれる思いで男に頭を下げ、花売りに戻った。男もそれを見届けるとその場を離れていった。
Aさんは未来人だ。だけどAだと名乗れば、相手は偶然などと思わず、Aさんを初恋の人だと思ってその実家とやらに連れて行ってしまうに違いない。
そうなれば少し前に七松先輩が非難されたように、なぜ阻止しなかったのかと言われかねない。
それに、万が一Aという女の人がAさんと同一人物だったら──。
「…ごめんきりちゃん。やっぱりちょっと気になるんだ」
「あっ、待ってAさん!!」
Aさんは追いかけていってしまった。
まずい、最悪な展開を辿ればAさんはもう帰って来ない。かと言って俺がこの場を離れるのは無責任。
「乱子!!!Aさんを追ってくれ!!!」
一か八か、事情を知らない乱太郎に託すことにした。
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玉虫厨子(プロフ) - 澄香さん» コメントありがとうございます!需要あってよかったです!! (5月8日 6時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
澄香 - いけいけどんどん!!!出茂鹿之介の需要ありまくりです!!!! (5月8日 1時) (レス) @page50 id: b225fd04a2 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - あもさん» ありがとうございます💓 (12月18日 9時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
あも(プロフ) - ヤバい/// 出茂鹿・・・好きッ♡♡♡♡♡♡♡♡ (12月18日 8時) (レス) @page48 id: 769dab171c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - あーちゃんさん» ありがとうございます! (9月4日 4時) (レス) @page50 id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月21日 7時