其の参(勘右衛門視点) ページ16
俺はそこまで聞いて感情が抑えられなくなっていた。
気がつけば、お伝ちゃんの胸倉を掴んで凄んでいた。
「Aに消えろなんて冗談でも言うんじゃねえ」
恐らく、人生で一番怖い顔をしていたと思う。目も血走って、額に青筋も出ていたかもしれない。言霊になりそうで、とにかく許せなかった。
胸倉を掴んだ手をAが振り払うまで、俺は我を見失っていた。
「ダメだよ、女の子に乱暴しちゃ!」
「何だよお前!妖術でも使って勘右衛門さんを手籠めにしたのか!?」
そこで奥から店主が出て来て、お伝ちゃんの頬を張った。
「黙って聞いてりゃお客さんにお前だの物の怪だの妖怪だのって!恥を知りなさい!」
彼女は頰を押さえて床にへたり込んだ。
「お客さん、本当にすみません。お代は結構ですから、どうかお引き取りを…」
そりゃあ当然だ。提供された団子やお茶には一切手をつけていないのだから。
何も言わずにAの腕を引いて店を出た。
「…A、大丈夫か?」
「私は大丈夫。けどお伝さんが張り倒されて…」
「あの子は何があったのか知らないけど、度が過ぎてる。仕方ないよ」
「お伝さん、私を見た時の反応で勘ちゃんに恋をしているのはすぐ分かったんだけど、まさか行方が分からない旧友に化けた物の怪だと思われたなんて…」
でも、顔が酷似していて名前も同じなんて偶然あるだろうか?
…いや、お伝ちゃんが俺達を騙そうと作り話をしたのかも。俺が名前を伝えたばかりにこんな事に…。
「本当にごめん。嫌な気持ちにさせてしまった」
「勘ちゃんは別に悪くないよ。ところでお伝さんの事はどうするの?お慕いしていたって言っていたけれど」
「Aに暴言吐くような子と一緒になんてなれないよ。どの道、俺にも慕っている子がいるし」
「そうなの!?私と恋人のフリしている場合じゃないじゃない!!」
「大丈夫。俺の好きな子、今目の前にいるから」
頬に手を添え、もう一方の手で腰に手を回して抱き締める。
「……ええっ!?」
「Aの出自がどこでも、何者であっても、俺だけはAの味方だから……」
「時間移動する物の怪かもしれないよ?」
「物の怪って呼ぶか未来人って呼ぶかの違いでしょ?Aの本質が変わる訳じゃない」
「……そう言ってもらえると安心するなぁ」
Aが強く抱き締め返してきた。俺達は互いに安心感を分け与えるようにしばらく抱き合っていた。
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玉虫厨子(プロフ) - 澄香さん» コメントありがとうございます!需要あってよかったです!! (5月8日 6時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
澄香 - いけいけどんどん!!!出茂鹿之介の需要ありまくりです!!!! (5月8日 1時) (レス) @page50 id: b225fd04a2 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - あもさん» ありがとうございます💓 (12月18日 9時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
あも(プロフ) - ヤバい/// 出茂鹿・・・好きッ♡♡♡♡♡♡♡♡ (12月18日 8時) (レス) @page48 id: 769dab171c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - あーちゃんさん» ありがとうございます! (9月4日 4時) (レス) @page50 id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月21日 7時