其の肆 ページ20
「わ、悪い…ちょっと想像以上に嬉しくて」
「良かったですね。それよりそのチョコ塗れの手で白衣汚しちゃダメですからね」
「あ…うん、手洗ってくる…！」
はにかんだ顔をチョコで汚れてない方の手で覆って講義室を出て行った。
今4年生ということは浪人していなければ22歳になるかならないかだ。室町で出会った八左ヱ門は14歳。それが数え年なら実質13歳でその差最大で9歳。大人びていて格好いいけれど、はにかんだ顔は忍たまの頃の八左ヱ門にそっくりで、胸が苦しくなる。
勿論私を斬った記憶はなくていいけれど、その他の楽しかった日々の出来事の記憶までないのはやっぱり寂しい。私の事をAと呼び捨てにする八左ヱ門はこの世に居ない。
「Aちゃん…？」
ふと私の名前が呼ばれて顔を上げる。そこに居たのは──
「え、タカ丸君…！？」
「そうだよ！久しぶりだねぇ〜！何年振りだろう。えーっと、四百──」
慌てて口を押さえる。
「大きな声で言っちゃダメ!」
「あはは、ごめんごめん。それにしてもまた会えるなんて思ってなかったから本当にびっくり」
涙ぐむタカ丸君。彼には過去の記憶があるみたいだ。
「ふふ、私もびっくり！会えて嬉しいよ！もしかして今も髪に携わっているの？」
「そうだよ。今日は大学のパンフレットの撮影にヘアメイクとして呼ばれたんだ。ほら、風が吹くと変な髪型になっちゃうからスタイリング剤を付けさせて貰ったり、場合によってはちょっとハサミを入れさせて貰ったりね。
Aちゃんはモデルなんだね」
「うん、そう。八左ヱ門もね」
「そっか、竹谷君に会えたんだ！良かったねぇ！」
「…まあ、記憶は無いんだけどね。私も思い出させない方がいいのかなって思ってて」
本人の前で過去を知っている体で話されると困ると思って伝えたのだが、タカ丸君の瞳が妖しく弧を描いた。
「ふうん…。それってもしかして僕にもチャンスが巡って来たって事かな？」
「な、何のチャンス…？」
「え〜？分かってるくせに言わせるの？Aちゃんの欲しがり」
私の髪を一房掬い上げると、毛先に口付けた。
「ヒェ…！？」
「フフ、今日は楽しい一日になりそうだね♡」
ああ、この心臓に悪い感じ！！
タカ丸節は今世も健在みたいだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 33人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
玉虫厨子(プロフ) - ゆずぎょうざさん» 拙作で泣いて頂きありがとうございます！竹谷ルートはシリアス多めでしたね、、ご心配をお掛けしました😂潮江ルートの方もどうぞ宜しくお願いいたします🙇✨ (4月21日 8時) (
レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
ゆずぎょうざ - 完結お疲れ様です！とても感動して泣いちゃいました！途中シリアスで最後までハラハラしていましたがハッピーエンドで良かったです😭潮江ルートを今から読みます！これからも頑張ってください🙇 (4月21日 7時) (レス) id: 03a920b2e2 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - コトハさん» 応援ありがとうございます！竹谷ルート楽しんで頂けて良かったです✨潮江ルートも読んで頂けるとのことなのでより一層頑張りますね！ (4月19日 8時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
コトハ(プロフ) - 竹谷ルート完結お疲れ様でした！ 本編に続き竹谷ルートのお話も素敵ですごく魅力されました！次の潮江ルートも楽しみに読ませて頂きますね、これからも応援しています！ (4月19日 7時) (レス) id: 08d8a5b782 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - 麗羅さん» ありがとうございます！不安にさせてしまいすみませんでした🙇シリアス書くの楽しかったのでまた不安にさせてしまうかもしれませんが次作も宜しくお願いいたします！ (4月8日 20時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2024年3月28日 9時
