其の弐(八左ヱ門視点) ページ11
七月に入り、虫取りのトップシーズンを迎えた。俺の所属する木下ゼミでは虫の毒を薬に利用する研究をしていることもあり、毎年七月にゼミのメンバーで研究対象を採集しがてら虫取り大会を開催している。優勝者には木下先生から5000円分の図書カードが贈られる為、皆気合い十分だ。
大会当日、虫取り網と虫籠を提げた俺達がAの木へと向かっていると、一人の後輩が小さく悲鳴を上げた。
「い、いましたよ!例の幽霊!!」
「だから普通の女の子だろ?」
「毎日立ってる時点で普通じゃないですよ!」
俺の背に隠れるようにして様子を窺う。この後輩が女の子だったらドキッとするかもしれないんだけど、うちのゼミは男しか居ないからなあ。悲しいが、ゼミで虫を扱ってる時点で女性人気はゼロだ。
「んじゃあ俺ちょっと様子見て来るから…」
「分かりました!お気を付けて!」
関わりたくないのか、遠く離れたところから様子を窺う後輩達を尻目に、小走りでAの木の下へ行く。
その子は首元の詰まった、白のレースのワンピースを着た清楚な雰囲気の女の子だった。こちらに背を向け、後ろ手に藍色っぽい小さい布のようなものを弄っていた。
「あのー、今からここら辺で虫取りするんですけど、いいですかね?」
振り返った女の子は、整った顔立ちで可愛らしい。
「え……」
声を掛けられたことで驚いているのか、瞳が揺れている。
ほら、全然幽霊なんかじゃ──…
「は、八左ヱ門……?」
「えっ!?」
「まさか、本当に会えるなんて思ってなかった…!!」
ちょっと待ってくれ。感動の再会みたいな雰囲気出されてるけど、俺はこの子と初対面だぞ!?
「な、何で俺の名前知ってるの?」
女の子は困ったような顔で言い淀む。幽霊を装った悪戯か?
「せっかく可愛いんだからそういう悪戯やめた方がいいよ……君の事本当に幽霊だと思ってる人も居るし」
すると目を見開き、酷く狼狽して目にいっぱい涙を溜めた。
「……そう、ですよね……。いきなり気持ち悪いですよね……。すみません、忘れて下さい」
「あっ、ちょっと!?」
彼女は走り去ってしまった。
悪戯って決めつけはよくなかったかな…。しかし何で俺の名前知ってたんだろ。
「竹谷先輩、あの人は…?」
「さあ…」
「あれ?これ何ですかね?」
さっきの女の子の持っていた藍色っぽい袋のようなものが落ちていた。
「参ったな…。届けてやらなきゃ」
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玉虫厨子(プロフ) - ゆずぎょうざさん» 拙作で泣いて頂きありがとうございます!竹谷ルートはシリアス多めでしたね、、ご心配をお掛けしました😂潮江ルートの方もどうぞ宜しくお願いいたします🙇✨ (4月21日 8時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
ゆずぎょうざ - 完結お疲れ様です!とても感動して泣いちゃいました!途中シリアスで最後までハラハラしていましたがハッピーエンドで良かったです😭潮江ルートを今から読みます!これからも頑張ってください🙇 (4月21日 7時) (レス) id: 03a920b2e2 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - コトハさん» 応援ありがとうございます!竹谷ルート楽しんで頂けて良かったです✨潮江ルートも読んで頂けるとのことなのでより一層頑張りますね! (4月19日 8時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
コトハ(プロフ) - 竹谷ルート完結お疲れ様でした! 本編に続き竹谷ルートのお話も素敵ですごく魅力されました!次の潮江ルートも楽しみに読ませて頂きますね、これからも応援しています! (4月19日 7時) (レス) id: 08d8a5b782 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - 麗羅さん» ありがとうございます!不安にさせてしまいすみませんでした🙇シリアス書くの楽しかったのでまた不安にさせてしまうかもしれませんが次作も宜しくお願いいたします! (4月8日 20時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2024年3月28日 9時