其の肆 ページ4
八左ヱ門は食堂に明かりを灯した後、虫籠を取りに一旦自室へと戻った。
すり鉢に金平糖を全部入れてすりこぎを押し付ける。ごり、ごりと音がする度に金平糖の角が取れていく。本音を言えば虫よりも八左ヱ門に食べて欲しかったけれど、夕方に拒否された時からこれはもうお役御免なのだ。それならいっそ八左ヱ門の愛する虫の養分になって頂こう。
「ごめんA、お待たせ！」
八左ヱ門は右手に虫籠、そして左腕で大きな徳利を抱えて小走りでやって来た。
「三郎に訳を話して少し酒を分けて貰ったんだ。
あ、それ砕くのに結構力要るだろう？俺がやるよ！」
すり鉢を取り上げる。私が夕方に食べさせようとした時は拒否したのに、虫の為に嬉々として金平糖を粉砕する彼に若干モヤモヤした気持ちを抱えながら、竈門に火を起こした。私が使おうと言ったんだから仕方ないけれど。
部屋の中に虫がいると気付いた時、初めは隣の部屋の文次郎君、仙蔵を頼ろうと思った。しかし長次さんの「もっと竹谷を頼ってやるといい」という言葉を瞬時に思い出した上、虫案件ならば彼が適任だとわざわざ五年長屋まで行った。
私の中では緊急事態ということもあり、あまりギスギスすることもなくカナブンから助けて貰えたし、カナブンの緊急事態でもあったので私も普通に話すことが出来た。
「八左ヱ門」
「ん、何？」
「心配かけてごめんね。もう一人で町には行かないから」
しゃがんで竈門の中で火が熾るのを眺めながら言った。面と向かって言うのはやめた。だって今でも一人で行きたいと思っているのに、それを我慢して「もうしない」と誓うことは私には苦しいことだから。
「私、早くこの時代に溶け込みたくて焦り過ぎてた。町へは行きたいけれど誰かについて来て貰うのも気が引けて言えなかったし、いずれ忍術学園を出る日が来るだろうから、自立に向けて色々見ておきたかったんだ。でも、既に自立したつもりでいたのかも」
「A…」
八左ヱ門は私を覆うように強く抱きしめた。
「俺の方こそごめん。いきなり一人は心配だから、しばらくは一緒に行って、徐々に俺とAの距離を離していこう。それでいつか大丈夫と思えたら、俺も喜んで送り出すからさ」
「本当？諦めなくてもいいの？」
「ああ。一緒にゆっくりやってこう！」
彼の筋張った手が私の手を絡め取る。それだけで不思議と私の抱えていた不満は溶けてなくなっていった。
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玉虫厨子(プロフ) - 麗羅さん» わー！一気読みありがとうございます！ 私もどんなエンドを迎えるのか言いたくてうずうずしてしまいます笑 (2月14日 20時) (
レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - すごく面白くて、一気に読んでしまいました！どうなってしまうんでしょうか…。ハッピーエンドじゃなかったら悲しすぎる！笑 (2月14日 10時) (レス) id: 06bc0a6cee (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - Maさん» いつもありがとうございます💓楽しんで頂けて何よりです！ (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - ねこさん» コメントありがとうございます🙇夢中とのことで嬉しいです！どのような結末にするかは決めているので、メッセージで質問頂けたらお答えできます！ (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
Ma - 鬱展開なのか...それとも...んでも！！めちゃおもろいです！ (2月13日 22時) (レス) id: 8c9f415f7b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2024年2月2日 21時
