其の陸（滝夜叉丸視点） ページ28
数刻前、私は喜八郎を捜していた。
ことの発端は奴の所属する作法委員会の一年生、黒門伝七と笹山兵太夫が思い詰めた顔で“綾部先輩と話がしたい”と部屋を訪ねて来たことだ。本人は居なかったが訳を聞くと、昨日の委員会の後に“Aさんを殺すことなどして欲しくない”という気持ちを喜八郎の前で吐露し、慰めてもらったそうなのだが、後々考えてみるとその際喜八郎は“僕に任せておいて”と発言していたらしい。
「昨日の会合の後、四年生の皆さんと下級生は各委員会に向かわされた筈ですが、綾部先輩は後から立花先輩と共に来られたんです。その時はあまり気にしなかったんですが、まさにその時竹谷先輩を殴っていたっていうのを僕達さっき知って…」
「僕達のせいで、もし綾部先輩と竹谷先輩が決闘でもされたら……!」
「そうか、それでお前達……。よし分かった!後はこの平滝夜叉丸に任せておけ!二人がそんな事を望んじゃいないって私がよ〜く言い聞かせておくからな!」
喜八郎が竹谷先輩を殴ったという件は昨日のうちに本人から聞いていたので一応軽く諌めるように話はしたのだが。本人を捜しつつ、まずは立花先輩にご相談しようと六年長屋へ向かうと、やや焦った様子の立花先輩が“Aを知らないか”と訊ねて来たので知らないことをお伝えし、こちらも事の顛末をお話しした。
「これはまずい事になったかもしれん」
「二人の行方が分からない事に繋がりが!?」
「Aが一人で町へ出掛けたのではないかと小松田さんに出門票を見せて頂いたら、綾部の名があった。大荷物を抱えていて、それが何か訊ねると“罠に使う道具”と答えて練習場の森へ繋がる裏門から出門したそうだ」
「まさか、その大荷物の中身がAさん!?」
そこからは早かった。六年生全員と竹谷先輩と私で裏門から山の方面へ捜索を開始した。裏裏裏山に現在は使われていない山小屋が一軒あることはその辺りをよく走り込んでいる七松先輩と私は知っていた。向かってみると案の定、その小屋の前に塹壕の延長線のような簡易的な空堀が掘られていた。野生生物辺りなら侵入を防げるだろうし、Aさんならそこから逃げ出せないくらいの効果はあるかもしれない。
「いたぞ！」
小屋の正面に回ってみると、二人が見つかった。戸口の前でAさんが頭を抱えて座り込み、それを喜八郎が宥めている、というような光景だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 37人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
玉虫厨子(プロフ) - 麗羅さん» わー！一気読みありがとうございます！ 私もどんなエンドを迎えるのか言いたくてうずうずしてしまいます笑 (2月14日 20時) (
レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - すごく面白くて、一気に読んでしまいました！どうなってしまうんでしょうか…。ハッピーエンドじゃなかったら悲しすぎる！笑 (2月14日 10時) (レス) id: 06bc0a6cee (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - Maさん» いつもありがとうございます💓楽しんで頂けて何よりです！ (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - ねこさん» コメントありがとうございます🙇夢中とのことで嬉しいです！どのような結末にするかは決めているので、メッセージで質問頂けたらお答えできます！ (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
Ma - 鬱展開なのか...それとも...んでも！！めちゃおもろいです！ (2月13日 22時) (レス) id: 8c9f415f7b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2024年2月2日 21時
