其の参 ページ25
喜八郎の落とし穴に落ちたのは何ヶ月振りだろうか。
「喜八郎？学園内に穴を掘るのは禁止されていた筈じゃ……」
「僕は三度の飯より大好きな穴掘りを制限されていました。それはあなたの時間移動の鍵が“穴に落ちること”と仮定されていたからです。でもそうじゃなかった。だから掘って構いませんよね」
打ち所が悪ければ死ぬけれど、と言いかけてこの穴が特殊な形状をしていることに気がついた。垂直ではなく傾斜をつけて掘られている。そのため私は穴底まで転がり落ちた。恐らく私が怪我を負わないように配慮したのだ。お陰で寝巻きは土汚れが酷いが。
「でも今日は穴掘り欲を解消する為に掘った訳ではありません」
「それじゃあ、どうして…」
「あなたを失わない為です」
喜八郎の言っている意味が今一つ分からず首を傾げると、彼は小さな麻の巾着袋を取り出し、点火して穴に落とした。
「何これ…ゲホッ、ちょっと煙いんだけど…！？」
むせ返りながらも穴壁の土を被せて消火を試みる。
「園田村特産の痛み止めになる葉です。医務室から少々拝借しました。煙を多量に吸うと一時的に
「Aさん、起きてください」
「………ん……」
身体を揺すられる感覚で目が覚めた。
穴の中に居た筈だが、いつの間にか床の上に横たわっていた。
「気分はどうですか？」
「とっても眠い」
言いながら目が閉じてしまう程には眠い。
「手荒な真似をしてしまいすみません。ですが、取り敢えず此処は安全ですから」
それはそうだろう。忍術学園はいつも安全だ。
「僕が着替えさせますけどいいですか？」
え？
パチリと目を開けると喜八郎の手が襟元に伸びてきているところだった。
「っダメに決まってるでしょ！」
「おやまあ」
まだ寝ていたいけれど何とか身体を起こして着替えを受け取る。目にも鮮やかな浅葱色の小袖だ。
……待てよ。どうして喜八郎が着替えを持っているの？というか、この小袖私のじゃないけど？
この部屋にも見覚えがない。慌てて戸口の方へと掛ける。
「ああっ、そんなに慌てたら危ないですよ！まだ薬が抜け切ってないですから」
喜八郎の制止も聞かず、ヨタヨタと足元を
しかし私は外の光景を見て言葉を失った。見渡す限りの深い森。此処はその中にポツンと佇む古い山小屋のようだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 37人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
玉虫厨子(プロフ) - 麗羅さん» わー！一気読みありがとうございます！ 私もどんなエンドを迎えるのか言いたくてうずうずしてしまいます笑 (2月14日 20時) (
レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - すごく面白くて、一気に読んでしまいました！どうなってしまうんでしょうか…。ハッピーエンドじゃなかったら悲しすぎる！笑 (2月14日 10時) (レス) id: 06bc0a6cee (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - Maさん» いつもありがとうございます💓楽しんで頂けて何よりです！ (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - ねこさん» コメントありがとうございます🙇夢中とのことで嬉しいです！どのような結末にするかは決めているので、メッセージで質問頂けたらお答えできます！ (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
Ma - 鬱展開なのか...それとも...んでも！！めちゃおもろいです！ (2月13日 22時) (レス) id: 8c9f415f7b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2024年2月2日 21時
