其の肆(三郎視点) ページ12
懐から兵糧丸を取り出すと、ほんの少し口角を上げて嬉しそうにした。
兵糧丸を指で摘んでAの口元へ持っていくと、それを食べさせてもらえると信じて疑わないAが口をぱかっと開けて待つ。
まるで雛鳥。このまま与えてもいいが、困った事に私はAに意地悪をするのが好きらしい。餌を待つAの目の前で、自分の口へ兵糧丸を放り込む
「……あぁ………!」
それはもう悲しそうに私の咀嚼する口元を見ている。
Aの腹が一層大きく鳴ると、床へ腹這いで倒れ込んだ。
「うあ〜〜……酷い……いや、三郎のだから別にいいんだけど、目の前で食べるなんてぇ……」
可哀想だけどなかなか良い、なんて思ってしまった私はいい性格してるな。
「もうダメ……照星さんに嫁ぐしかない……」
「な、何でそこで照星さんに嫁ぐって話になるんだ」
「照星さん、私を娶っても食い扶持の確保には困らないんだって……それに優しいしさ」
一年生の間で照星さんが求婚したとかって噂になってたけど本当だったのか。というか一時的な空腹で決めるな。
「金と優しさだったら利吉さんも当て嵌まりそうだが?」
「言い方語弊があるけど!
利吉さんは仕事人間だからあと何年かしたら山田先生同様にあんまり家に帰って来なくなりそう。寂しいのは嫌だよ」
なるほど、売れっ子なのが仇になりましたね利吉さん。
「ふうん。つまり構い倒して欲しいと」
「んー、放置より構い倒される方がいいね」
「ならば私が適任だぞ?何しろお前にちょっかいを掛けるのは楽しくて堪らんからな」
食べたふりをした兵糧丸を目の前にちらつかせると、刮目して起き上がった。
「ミステリー!?」
「食べたふりをしてたんだよ」
「これ、食べていいの!?」
「ああ、食べろよ」
今度は小細工できないようにしっかり私の右手首を掴んで兵糧丸を回収し、満足そうにそれを咀嚼した。
「美味いか?」
「うん、生き返る〜〜!」
その顔が誰よりも近くで見られたら毎日楽しいだろうなあ。
「A、ちょっと来て」
「何?」
後頭部と右肩に手を回し、兵糧丸に塗してあったきな粉が付着した唇を舐めた。
「んっ!?さぶ、ろ…!?」
「きな粉付いてた」
「……い、言ってよおお!」
弾けるように立ち上がると、民家を出て行った。
私の唾液で唇を濡らしたAの困り顔は私の心の深い所を擽る。
「…参ったな、今更こんなに欲しくなるなんてさ」
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玉虫厨子(プロフ) - コトハさん» こちらこそ最後までお読み頂きありがとうございます!鉢屋とのやり取りを気に入って頂けて嬉しいです☺️鉢屋はどうしても書きたいシーンが一つあるので、いつかルートで書けたらなぁと思っています。応援ありがとうございます!! (12月30日 7時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - ちーさん» とうとう終わりました!連載中は何度もコメントくださりありがとうございました😊そしてこれからも末長く宜しくお願い致します🙇 (12月30日 7時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
コトハ(プロフ) - キャラ皆んな魅力的ですが三郎と主人公ちゃんのやりとりが特に好きだったのでいつの日か三郎のお話も読めると嬉しいです、玉虫様のご無理のないペースでこれからも楽しみに応援しています。長々とすみません (12月30日 6時) (レス) id: 97fc43e259 (このIDを非表示/違反報告)
コトハ(プロフ) - 共通章完結おめでとうございます! 素敵なお話をいつもありがとうございます! 作品を読みながらこのキャラとのルートはあるかなっとドキドキしながら想像するのも楽しかったのでこれからキャラ達とどんなルートのお話が読めるのか楽しみです! (12月30日 6時) (レス) id: 97fc43e259 (このIDを非表示/違反報告)
ちー - とうとう共通話が終わったんですね!各キャラの分岐の話も楽しみにしています。最後まで愛読させていただきます! (12月29日 22時) (レス) id: 88a0bb30f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年12月10日 16時