ちょっとしつこい人達の段 ページ50
団蔵君、虎若君と別れた後、私は再び吉野作造先生の元へとやって来た。
「学園長先生のご用事は済みましたか?」
「はい。夏休みの逗留先を探してくださって。そのお話でした」
「その逗留先というのは山田先生の所ですか?」
「いえ?兵庫水軍と加藤村と佐武村ですが」
「そうですか。山田先生、夏休みはAさんをご自宅へ滞在させると学園長先生にお話されてるのを見かけましたけど、却下されたんですね」
いや山田先生の囲い込みエグいですって!
どんだけ利吉さんに嫁取らせようとしてるんですか!
「実現しなくて良かったです!」
「おやおや、今のは聞かなかった事にしときましょう。
それではこの箱を土井先生に渡して来てくれますか」
「分かりました!」
木箱に入っているのは何かの本と、何かの巻物と、一年は組の宿題プリント、それから新品のチョークのようだ。
「土井先生、Aです」
戸を開けると、土井先生はなぜか苦笑して迎えてくれた。
「…? これ、吉野先生からお渡しするようにと」
「ありがとう、助かるよ」
「ハァ……」
土井先生のお礼の言葉に被せるように、同室の山田先生が溜息をついた。
「……山田先生どうされたんです?」
「夏休みに君を家に招く気満々だったみたいでね、学園長先生に別の滞在先を用意したと聞いて朝からこんな調子なんだ」
「家内がAに会えるのを楽しみにしとったんだがなぁ…。文になんて書くかなぁ」
「先生、それ知ってますよ。哀車の術ってやつですよね?」
「いいや。別にお前を術に掛けたところで何も変わらんだろうよ。それともあれか、泣き落としでもすれば家内に会いに来てくれるのか?」
「いや、私も一度お会いしたいなとは思ったんですがね」
「何ッ!本当か!!」
慌てて立ち上がったので膝で文机を引っかけてちゃぶ台返しをしそうになる。それで転がった筆を床に落とす前に土井先生がキャッチした。
「私と利吉さんの結婚に期待するのはご遠慮頂くようお話に上がると言ったら、利吉さんに行かなくてよいと言われました」
「んなっ!?何ですとぉ〜〜〜!?
それは断った利吉が正しい!!アンタは鬼ですか!?」
「山田先生、もしかしてAは山田先生に結婚結婚と言われて迷惑してるんじゃ…?」
山田先生は土井先生にキッと強い視線を浴びせながらも、「そうなのか!?」と訊く。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月13日 9時