其の参（団蔵視点） ページ49
「私が各所に送迎をするよう言われていますので、夏休み中はどうぞ宜しくお願いします」
「こ、こちらこそ、大変御足労をお掛けしますが宜しくお願い致します！」
Aさんが、髷が前に垂れるほど深く頭を下げるので、清八が頭を上げさせようと声を掛けようとした瞬間、コレステロール号がAさんの頭巾を
「わ！？」
「こら、コレステロール号！」
「この子コレステロール号って名前なの！？」
コレステロール号は気性が荒く、乗る人を選り好みする気難しい馬で、気に入らない人の頭をガブリと噛んでしまう事がある。
だがコレステロール号は頭巾と髷を甘噛みしているようで、Aさんに危害を加えるつもりはないらしい。
「だ、大丈夫ですか？」
「うん、大丈夫だよ虎若君」
緊張しながらもおずおずと顔を上げるAさんと、コレステロール号の視線がかち合う。すると鼻の穴を拡げてフスー！と鼻息を浴びせかけてAさんの前髪を揺らした。
「私、嫌われちゃった？」
「いいえ、その逆ですよ。Aさんの事を気に入ったようです」
「本当ですか！良かった〜！」
「コレステロールがこんなに早く懐くなんて珍しい！」
「でもこの馬なんか助平な顔してるよね」
虎若が言うと、コレステロールは虎若の頭に噛み付いた。
「わあッ！？ごめんごめん、悪かったってー！！」
「コレステロール、離してあげて…！」
Aさんが馬のいい所を撫でてやると、コレステロールは気をよくしたみたいで虎若を解放した。
「人の言う事が分かるなんて、君とてもお利口さんだねぇ！」
「Aさん、馬借業の素質ありますね！加藤村に来られるのが楽しみです！」
「ふふ。そしたら馬のお世話をたくさんお手伝いしなきゃね」
コレステロールもそれを聞いてフスー！と鼻を鳴らした。
「それじゃあ若旦那、虎若さん、Aさん。失礼します」
「清八、またねー」
「お気をつけて〜！」
見送りくらいなら出門票は不要とのことで、三人で門を出て清八達を見送った。あんなコレステロールの生き生きとした走り、久しぶりに見たなあ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 62人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年8月13日 9時
