其の参（小平太視点） ページ46
Aはこの地に降り立ってから、その小さな身体に多くの困難を抱えて来た。私も一つ、災難を与えてしまった。
未来から来たという稀有な存在が、危険を呼び寄せる。しかしAは自分から誰かに頼ろうとしない。それが彼女のいい所でもあるが、一緒にいたいと願う者からすれば、それは時にもどかしく、危なっかしい。
今回の件も、忍たまを巻き込むまいと、タソガレドキのいいように条件を受け入れて。私が掘り下げなければ、Aは黙って消えるつもりだったのかと思うと恐ろしい。
「…忍術学園に居たいよ。小瓶の中身だって誰にも飲ませたくない。もうしばらく皆と一緒に居たい」
彼女の本心が私の希望と一致して安堵する。しかしAの顔は苦しそうだ。優しいAの事だから、事情を知った私が消されるかもとか、我儘を言って気が引けるとか、そんな事を思っているんだろう。
「今までよく一人で我慢していたな。話してくれてありがとう。言いづらかったか？私達がもっと頼り甲斐があれば良かったんだがな！」
「そんな！」
「ははは、冗談だ！大丈夫だ任せておけ！休み明けは私がつきっきりで守ってやる！」
「小平太…」
「申し訳ないとか思うのは禁止だ！なんせ私がAと一緒に居たいからそうするのだからな！」
ニカッと笑ってみせると、Aは瞳を潤ませて私に飛び付いた。
「おっと、」
「小平太、ありがとう……」
「どういたしまして！」
Aからの抱擁に愛情的な意味合いは無い。だけど今はそれで十分だ。
繰り広げられていた会話の内容を知ってか知らずか、長次が部屋へ戻って来て、Aは弾けるように私から離れた。
「もそ、邪魔したか…」
「ぜ、全然っ！？」
「………、図書委員の急用を思い出した…」
「待って待って長次さん！！」
空気を読んで再び出て行こうとする長次をAが必死に止める。
「…小平太はいいのか」
「ああ、構わん！」
「もそ…では寝るか」
私がもう一度屋根裏を、長次が戸の外の確認をし、何の気配もないと安心させてから灯りを消した。
「おやすみ！」
「おやすみ…」
「おやすみなさい」
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年8月13日 9時
