小袖を受け取りに町への段(利吉視点) ページ40
「Aさん、今から注文した小袖を受け取りに行きましょう」
食堂で会ったのでそう伝える。
Aさんが聞き直すのでもう一度同じ事を言うと、おかしそうに笑い飛ばした。
「やだなぁ利吉さん。注文したのは一昨日の夕方ですよ?そんなの二日足らずでできっこありませんよ!さすがにそれくらい未来人でも分かります〜」
「ええ、まあ普通は。お願いして早く作ってもらったんです。
外出届はあるので、着替えて来てください」
「えっ!色々と早い……」
◆
今日は前回の反省をして、道中で私達の関係性についてしっかり話をした。
「いいですか。町では私達は恋人という設定でお願いします。私の事は利平さんと呼んで下さい。決しておどおどしないで」
「は、はい。利平さんは恋人、おどおどしない…」
ブツブツと繰り返すAさん。うーん、大丈夫かな。
今回は北石君に見つからずに店に辿り着けて一安心。まああれだけ釘を差しておけばもう邪魔はしてこないだろうけど。
選んだ小袖の色合いは地味に思えたが、いざ仕上がってみるとそれほどでもない。大きな柄物の片身替りはいい選択だったな。
「かっ、可愛い……!!」
Aさんも気に入っているようだし良かった。
「仕上がりの最終確認を一緒にして頂きますので、そちらの奥で着替えて頂けますか?」
「分かりました」
Aさんが着替えに入ると、店主が小声で話し掛けてきた。
「いやぁ、ちょうど今朝仕上がりましてね」
「急かしてすみませんでしたね」
「いえいえ、お急ぎとあらばまたご利用下さい。ところで、あのお方は恋人ですか?」
「ええ、まあ、そんな所ですかね…」
「別嬪さん捕まえましたねぇ。美男美女でお似合いですなぁ」
「ははは…」
「おや、着替えが終わりましたかな…では針子がほつれ等ないか確認をさせて頂きます」
女性のお針子さんが作業場から出て来てこちらに会釈をし、Aさんのいる奥の試着場へと行くと…
「まあ!私はこんな別嬪さんのお召し物を仕立てさせて頂いてたんですね!?いやぁ〜どっからどう見ても素敵…」
「こら喜久、お連れ様がお待ちなのだから口ばかり動かさずに手を動かしなさい!」
なかなか時間が掛かっているようだ。
私もそのうち新調しようかな、と反物をしげしげと見ていると、ようやくAさんが奥から出て来た。
「すみませんお連れ様、お待たせしてしまって。髪も少し結い直させて頂きましてね」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月13日 9時