其の弍（文次郎視点） ページ39
こ奴らは、俺の気も知らないで…！！！
見よ、仙蔵のあの勝ち誇ったような笑みを。Aが再び懐いたことで途端に自信を取り戻して威勢まで戻った。これ見よがしにAの頭を撫で回す。
「どうして朝いなかったの？私やっぱり邪魔だった？」
「いいや、そういう訳ではないが……」
俺だって、自室で夜明けを迎えようと思ってはいたのだ。しかし夜中にAが魘されるような声を上げた時、衝立の向こうの寝乱れたAが目に入り、目が冴えて眠れなくなった。その雑念を払おうと、夜中から鍛錬に出掛けたという訳だ。
「俺がAを疎ましく思って出て行ったと勘違いさせたなら謝る」
「ううん、そんな事は思ってないよ。でも良かったー、仙蔵も文次郎君も味方で」
俺は思わずAの頭を叩いてやった。
「あべしっ！」
「何を今更な事を言っとる？お前の心配事とやらが俺達が敵か味方かって事だったらどつくぞ」
「もうどついてる！でも、そう言ってくれて嬉しい！」
Aの目には光るものがあった。まさか本当に俺達を敵かどうか考えあぐねていたのか！？
もう一発どついてやろうと思って右手を振り上げると、反射的にAがぎゅっと目を瞑って構える。ちと可哀想に思って、撫でてやった。
「ほら、泣くな…俺が叩いて泣かしたと知れたら小平太に殺される」
「文次郎君〜〜〜」
仙蔵にやったように、俺にも抱きつくA。仙蔵には腕ごとだったが、俺は頭を撫でるのに片腕を上げていたからより密着する。
「んなッ！？ばばばバカタレェ！！離れんか！！」
「とか言いつつ、無理に引き剥がそうとはしない辺り、文次郎君は優しいな？」
仙蔵がニヤリと笑いながら揶揄うのですぐに両肩を掴んで引っ剥がす。
そこでタイミング悪く留三郎が通りかかる。
「くぉら馬鹿文次！！Aに手出してんじゃねェェ！！！」
「断じて出してない！むしろ出されたんだよ！」
「はぁ！？もっとマシな嘘つきやがれ！！Aがお前に手を出す訳あるか！！」
「嘘だと思うなら本人に聞いてみろ！思い込みで喧嘩売るなんていかにも馬鹿留のしそうな事だぜ！！護衛当番で鼻血出したら同じ事言ってやるからな！！」
「本当か！？」
「文次郎がAの頭を叩いたのが始まりだ」
「叩いたぁ！？最低な手の出し方じゃねーか！」
「馬鹿、軽くどついただけだ」
留三郎の拳が脳天を直撃する。
仙蔵がAを連れて食堂へと消えて行った。
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年8月13日 9時
