其の参 ページ37
その後、髪結いをしてもらい、昨晩とは裏腹に清々しい気持ちでいた。誰かのさり気ない一言でこんなにも救われたのは生まれて初めてだ。
改めて感謝を、と思っていると、先に彼の方から謝意を示された。
「Aちゃん、どうもありがとう」
「えっ、何の事？むしろ私が感謝しないといけないのに」
「昨日、【髪結いしていない姿を僕以外に見せないで】って言ったから、今日こうして僕の所へ来てくれたんでしょう？お陰で朝方のAちゃんを独り占めできて嬉しかったなぁ」
「ああ…それはごめん、忘れてた。ここに来たのはタカ丸君の人柄で選んだから」
「僕の人柄？」
「うん。タカ丸君なら詮索せずに部屋に居させてくれそうだなって思って」
一瞬ぽかんとして私の話を聞いていたが、フフ、と不敵な笑みを溢す。
「そうだよ、聞きたいのを我慢してたんだから、ご褒美ちょうだい？」
「ご褒美かあ。何がいいかな？」
「Aちゃんからの口付けで〜！」
「は！？口付け！？ダメ、それ以外で！！」
「えー、早く早く〜」
目を瞑り、少しだけ口を尖らせる。
まさかタカ丸君のキス待ち顔を見る事になろうとは！！
さて、どうしたものか。
タカ丸君には昨日から迷惑を掛けているし本人がそれを望んでいるなら…
ええい、腹を括れ！
「…なんて、冗だ──…」
タカ丸君が冗談だよと言いかけたのと、私が勢いで触れるだけの口付けをしたのが同時だった。お互い一瞬だけ放心状態となった。
「…え、ちょ！？今、冗談って言った！？」
「い、言ってない、最高のご褒美だよ……！」
眉根を寄せ、赤面するタカ丸君はレアだと思う。
「僕、出茂鹿之介さんや七松君や竹谷に負ける気ないからね。意味、分かるよね……？」
「もしかして、嫁に取るって話？でもそうだとしたら八左ヱ門は何…？」
「さあね。知らないなら無理に知ろうとしなくて良いんじゃない？
口付けしてくれた事、後悔させないからね。きちんと責任は取るから…」
「や、あの、責任とかほんと気にしないで！さっきのは忘れて！」
「無理だよ、一生忘れられない。僕達はもう特別な仲なんだから…フフ」
「き、今日はありがとう！じゃあね！」
逃げるようにタカ丸君の部屋を後にした。
しばらく鼓動が煩くて落ち着かなかった。
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年8月13日 9時
