其の弍 ページ36
(う、わ)
目が覚めると眼前には整ったタカ丸君の寝顔があった。
(そうか、私泣いた後寝てしまったんだ。なんて子供じみたことを…)
タカ丸君を起こさないよう、そっと上半身を起こすと、腹部にタカ丸君の腕が回された。
「もう起きるの？」
「わっ！？ごめん起こしちゃった？」
「んーん、そんな事気にしないの…」
「ンッ！？」
そのまま左の腰辺りに顔を埋めて抱きつかれる。タカ丸君の鼻先がぐっと押し付けられて、手足にかけて電気がビリビリと伝うような感覚が走った。
「フフ、本当Aちゃんって敏感で繊細…」
「もしかして、寝ぼけてたりする…！？」
「………寝ぼけてるって言ったらある程度は許してくれる？」
突然強い力で上半身が布団に戻され、タカ丸君が上に覆い被さる。いつもの余裕のある表情は崩れていて、どこか真剣な目つきで私を見下ろす。
「…ど、どしたの…？」
「さっき、Aちゃんを寝かせた後、何があったか分かる？」
私の汗腺はぶわっと冷や汗を放出する。
「分からないです…私は一体、何を…！？」
タカ丸君の細い指が、ツツ、と頬をなぞり、首筋、鎖骨と降りてゆく。その手つきが擽ったくて身を捩ると、首筋に熱を帯びた吐息を一つ、落とされた。
「んっ…」
思わず嬌声が出てしまいそうで、手の甲で口を押さえる。
「君の寝乱れた姿を見て、自分を抑えるの必死だったんだから…」
確かに、私の寝相は悪い。
旅行先で浴衣を着ると寝起きが誰にも見せられないくらい酷い有様なのだ。この時代で毎日寝巻きで過ごすも上達(？)せず、裾も皺がよってぐちゃぐちゃになるので恥ずかしいのだが、いかんせん就寝中のことなので改善出来ずにいた。
「ご、ごめんね…」
「………なーんてね」
人のいい笑顔を湛えて、私の上から退いた。
「本当は寝相良く寝ていたから安心して。それと、あんまり悪い男の冗談を真に受けちゃダメだよ」
タカ丸君の言う悪い男とは、タカ丸君自身のことだろう。しかし私には曲者の言葉が思い起こされた。
「…ねえ、タカ丸君。私って騙され易いのかな？」
「そうだねえ。騙され易いと思うなあ」
「うん…そっかぁ…！」
タカ丸君の両手を取って縦に振った。
「ありがとう、お陰でスッキリした！もう迷わないよ！」
「本当！？僕Aちゃんといい思いしただけなんだけど、良かった〜！」
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年8月13日 9時
