其の弍 ページ33
「…救う、なんて言葉に
そんな事より、オーマガトキとの戦支度で忙しいんでしょう?こんな所で油売ってていいんですか?タソガレドキ忍者隊組頭さん」
「組頭!どうしてこの子に素性話したんですか!?」
「……尊奈門……反応してしまったら負けだよ。
いかにも、私はタソガレドキ忍者隊組頭の雑渡昆奈門。私をカマにかけるとはお見それしたよ」
尊奈門と呼ばれた部下ははっと口を噤んだ。
利吉さんの推測は当たったという訳だ。
「君の言う通り、今はオーマガトキとの睨み合いの最中で東奔西走していてね…私の休日を返上して君に会いに来てるんだ。
ところで、私がタソガレドキの者であると誰が言っていた?私のすぐ背後を追って来た彼かな?」
勿論、利吉さんだと言うつもりはない。
「身元が割れるのを気にするのなら忍術学園に来なければいいでしょう?二日連続で来るなんて馬鹿なんですか?」
「まさか今日やって来るなんて誰も思わないでしょ?忍なら人の隙を突いていかなきゃね」
忍者隊組頭はふと学園の方を見ると、性急に話を終わらせた。
「…しかしさすがに忍術学園は一筋縄ではいかないか。
猶予は夏休みが終わるまで。それまでに君が誰にもこの小瓶の中身を飲ませることが出来なければ九月頃、戦が落ち着いたら君を連れ去りに来るよ」
「だから、やりませんって!」
私を抱えて塀に飛び上がると、学園内の手近な木の枝に飛び移った。
「そうだ、一つ忠告しておく。六年い組は君の命を狙っている。十分に気を付けたまえ」
1メートルほどの高さから落とされ、地面に身体を打ちつけた。幸いにも草地だったのでそれほど痛くはなかった。
「Aさん!?こんな所で何してるんですかぁ!?」
近くにいたらしい小松田さんが駆け寄る。急いでタソガレドキ忍者隊のいた方を見ると、代わりに私の手拭いが木の枝に垂れ下がっていた。いつの間にか懐からくすねたらしい。
「…ああ、風に飛ばされた手拭いを取ろうとしたんですね?もう、危ないですから一人で取ろうとせずに僕や忍たまを頼ってください!」
「…すみません」
「はい、どうぞ!」
受け取った手拭いを懐にしまう時、硬いものがカツンと指先に当たる。どくん、と大きく心臓が跳ねる。
(例の小瓶だ)
受け取っていないのに、懐に入っている。
おおよそ手拭いを抜き取った時にあの組頭が入れたのだろうが、全く気が付かなかった。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月13日 9時