其の漆(勘右衛門視点) ページ27
兵助の目つきが変わった。まるで獲物を見つめる猛禽類のそれだ。
「別に、点数についてはその分誰かを倒せばいい」
「あー、本気だね、これは」
兵助は五年い組の中で最も成績が優秀だ。それは座学のみならず、実技教科でもその才を遺憾無く発揮している。俺が直感で戦うのに対し、兵助は動き方を研究した後、数年かけて身体に染み込ませ、それを磨き上げた三位一体の代物だ。
「兵助に戦いを挑もうなんて、俺もどうかしてる」
「よく言うよ、勝機が無いと戦わないくせにさ」
万力鎖が兵助の苦無に弾かれる。後ろに飛び退いて詰めていた距離を一旦置く。
…ふりをして、無防備なAの風船を割った。
「えっ?」
「話が本当なら、兵助は現在七点。俺はAの風船を割って八点だ。同時にお前の護衛役としての勝ち逃げも無くなった」
「…じゃあ、この場で勘右衛門を倒して九点にしないとね」
忍たまに極力危害を加えないように風船割るのって大変だ。俺も兵助も、普段愛用している武器が相手に当たれば医務室行きは免れないほどの怪我をするし、当たりどころが悪ければ失明したり、最悪の場合は死なせてしまう。
確実に風船のみを狙っていかなきゃいけない中で、失うものの無くなった兵助は、より一層殺気を強くして強攻してくる。一撃がさっきの倍くらい重い。
「うっわ。勘ちゃんそろそろヤバいかも」
「喋れるんならまだ余裕って事だろ?」
は〜〜兵助格好良すぎでしょ。元々顔がいいのに更に目を細めてさ、長い睫毛が影を落とすのに何故か瞳はギラついているし。こんなん女子だったら惚れてるよ?Aが兵助の顔面の変化に気づいていませんよーに!
「A、報告に行ってきてよ」
「あ、うん。そうだね」
「いや、せっかくだし勝負見届け人になってもらおう。報告はその後で遅くないよ」
何それ、Aに格好いい所見せようって魂胆?
しかしこれからって時に、無情にも鬼ごっこ終了を告げる鐘が鳴り響く。
「あ、終わった…」
突如学園長先生の思いつきで行われた鬼ごっこは、三郎が十三点を獲得して優勝し、幕を下ろした。
「予算一割増しは学級委員長委員会か…一番不要なとこじゃないか」
「馬鹿言うな八左ヱ門、学園長先生の思いつきに係る費用は学級委員長委員会の予算から捻出されているんだぞ。この風船だってそうだ」
三郎が割られなかった自分の風船を八左ヱ門の顔に押し付ける。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月13日 9時