其の弍(作兵衛視点) ページ18
「鈍感…」
「え?なんて?」
そう、俺はAさんが気になっている。
Aさんの部屋の戸を修補した時、一目惚れだった。
しかしこの人、ほんっと鈍感!
急に好みの異性の話が出て、その条件が自分に当てはまっていたら【あれ?作兵衛君ってもしかして私の事…】ってならねえか!?
そんなことも万に一つも考えないくらい俺は意識されてねえってか!?俺は歳下過ぎるのか!?
「…作兵衛君?どしたの?」
「…君付け、好きじゃないんで作兵衛って呼んで下さい」
「そうだったんだ、ごめんね作兵衛」
「ありがとうございます」
相変わらず俺は俯いたままだし、Aさんの手も掴んだまま、離すタイミングを失っちまった。
「…で、Aさんがさっき言いかけてた話は何なんですか」
「ああ…大した話じゃないんだけど、有平糖は好き?」
「有平糖?まだ食った事ないっす」
「そっか。昨日利吉さんと街に行った時にお土産買って来たの。用具委員会の分は浜君に渡したから、良かったら食べてね」
はぁ。利吉さんねぇ。あの人もなーんか下心あるんじゃねーかって思うんだよな。恋敵になったら勝てる気しねえや。
「ありがとうございます」
「……で、この手なんだけど…。そんなにほっぺつつかれるの嫌だった?」
「そうすね…子供扱いしたお仕置きです」
「ご、ごめんなさい」
その時、迷子縄がピン、と張った。
「あいつらもう起きちまったのか…そろそろ行かねえと」
もう一歩踏み込んでおきたかったな…あ、そうだ。
掴んだ手を少し引き寄せると、手首に口付けた。するとAさんはびくりと肩を震わせて顔を真っ赤にした。
「…な、な、何して…さくべ、?」
「なるほど、こうやって攻めてけばいいんすね!
じゃあ俺はこれで。また話しましょう、Aさん」
「へ!?攻めるって何?ちょっと作兵衛!?」
手首をもう片方の手で抑えて慌てるAさんを尻目に、俺は柱に括り付けた縄を解いて自室へと戻った。
「おお、作兵衛どこに行ってた?」
「ん、早く目覚めたんで顔洗いにな」
「にしては顔真っ赤だけど?」
「う、うるせ!お前らがどっか行ってねーか心配で全速力で戻って来たんだよっ!」
「ふーん?」
俺がAさんのことを気にしていることは、同室の二人はまだ知らない。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月13日 9時