二日目の朝の段(利吉視点) ページ13
(うーん、これは想像以上)
早朝、陽の光が筋となって隙間から差し込んできて目覚めたのだが、眼前の光景には驚きを禁じ得ない。
Aさんの寝相…否、寝巻きの寝乱れ方である。
本人はこちらに背を向けてきちんと布団の上に収まってはいるが、目のやり場に困るほど寝巻きが肌蹴ているではないか。
掛け布団は暑かったのか、脚の間で団子状になっている。顔は髪が邪魔して窺えないが、寝息から察するに深い眠りについている。
左脚は完全に露出していて初夏とは言え寒々しい。腰紐があることで辛うじて臀部は隠されているといった所だろうか。
「Aさーん。風邪引きますよ」
反応無し。まあこれくらいは想定内。
仕方ないので私の使っていたまだ温もりの残る掛け布団を掛けてやる。しかしそれも数十秒で跳ね除けられてしまう。
「ン"ン"」
(寝ながら怒ってる…)
その反応が何だか滑稽で、吹き出してしまったのにAさんは尚目覚める様子がない。
ふと太腿に目をやると、完治はしているようだがまだ新しい傷があった。きっとこの時代にやって来てからついたものだろう。
婚前の娘の生脚を凝視するのも悪いので、そっと寝巻の裾を引っ張って脚を隠す。
するとさすがに眠りが阻害されたのか、右半身を下にして壁側を向いていたAさんは身じろぎして上半身だけ真上を向いた。
あられもない姿になっていたのだが、私が気になったのは鎖骨上の変色だ。恐らくは人間の付けた吸い付きの痕。それも昨夜の侵入者のものではない。
私はそれが誰によるものなのか、気になって仕方がなくなっていた。爪の先でそれをツツ、となぞるとその指を払い除けるかのように手を掛け、また規則的な寝息を立て始める。
「この子、この調子で貞操守れるのか…?」
自身の着替えを済ませて、布団を押し入れに仕舞い、手拭いを持って顔を洗いに出掛けた。
「利吉」
「父上、おはようございます」
「昨晩の出来事の事だが」
「そう言えばあれだけ騒いだのに先生方はお見えになりませんでしたね」
「学園長先生が、忍たま達がどのように対処するか見てみたいとおっしゃったのでな、陰から観察していたのだ」
「はぁ、なるほどそうでしたか」
「それで、どうであった?」
「かなりの手練れですね。上背もあるし身体能力も高いです。恐らくまたやって来るでしょうね」
62人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月13日 9時