其の弍 ページ2
「仙蔵ー、文次郎君ー」
呼び掛けると、直ぐに仙蔵が戸を開けてくれた。
「Aか、お帰り。文次郎は今鍛錬に出ているが…」
「そっか。これさっき町で買って来たんだけど、良かったら作法委員会の皆で食べて」
「これは…有平糖か!こんな高級菓子を貰ってしまっていいのか?」
「うん!気にしないで」
「悪いな…ありがとう。次の委員会で頂こう」
頭を撫でてくれる。仙蔵の顔は今までと比較すると本当に穏やかだ。やはり言っていた通り、私に気を許していなかったのだろうな。
「今、時間はあるか?」
「ん?うん」
「入ってくれ。してみたい事がある」
してみたい事って何だろう?
仙蔵と向かい合わせに座らされ、引き出しから貝殻を取り出した。
「それは?」
「紅だ。お前に
「別にいいけど…」
細い紅筆が唇の上を滑る感覚が擽ったい。
「こら、動かない…」
仙蔵の、私の顎をつかまえる力が強くなる。
整った顔が間近にあり、何だか目のやり場に困るので、終始目を閉じていた。
「よし。ゆっくり目を開けてご覧」
言われた通りにすると、自身の顎に紅筆を持ったまま手を置いて満足気に頷く仙蔵が近くにいた。
「思った通り」
「え〜何が?」
「この紅は私がいつも女装時に使用しているものなのだが、色白のお前にもよく映えると思ってな」
何て答えればいいかわからず「ふーん」と適当に返事をすると、仙蔵は呆れてしまった。
「お前なあ、女子なのだからこういうものに興味を示さんか!?」
「ええ!?いやあるよ、その貝の入れ物も綺麗だなーって思うし、今もどんな唇になったか気になってるよ」
「あ、すまん。鏡を渡していなかったな…ほら」
「おお…!」
くノ一教室で点した時よりもしっくり来る色合いだった。
「紅を点してこんなにしっくり来たのは初めてだよ」
「私の紅が似合うのは、お前が私と同じく色白で、同じ色合いが似合うからだ。こういう黄色味よりも、もっとはっきりした寒色が合う。例えば藍色とか」
「藍色!!今日藍色の小袖を注文してきたの!!」
「見ずとも分かるな、お前によく似合うのが。そしてお前に合うという事は、私にも合うという事だ」
「……? 貸せってこと?」
「違う。今度その小袖を着て二人でどこか出掛けよう。その時また紅を点してやる」
仙蔵はせっかく点した紅を拭い取ってしまった。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月13日 9時