し ページ1
「俺彼女出来たわ」
ゾムのこの言葉に私とロボロは目を丸くした。
麦酒ジョッキを一気飲みをした彼は、口元の泡を拭いながらそう言い放ったのだ。
顔が良く背丈がある彼はよく人に言い寄られる事がある。自分の好みであればホテルに直行するあのゾムにまさか彼女が出来るなんて思っても見なかったことだ。
「…お、おめでとう?」
「なんやその疑問形は」
ドッキリ?それとも嘘?いや、ゾムはそんなつまらない嘘を吐くような男ではない。
ぐびり
目の前の酒を取り敢えず胃に流し込んだ。頭を冷静にさせたくなかったから。聞き間違いという事にしておきたかったから
「どうせ嘘やろ?大先生じゃあるまいし」
「ちゃうねんって!ほら見てみい」
「…ほぉん」
ロボロが訝しげにゾムを見つめると、ゾムは自分のスマホを取り出す。ロック画面を解除して、最新の写真フォルダを私達に見せてくれた。
何というか、普通の女の子だった
可愛くないわけじゃないが、とりわけ可愛いっていう訳でもない。本当にどこにでも居るような女の人だった。強いて言うならば、優しくて素朴な雰囲気を纏っていた。
言い方は悪いが、ゾムが今まで抱いていた女の人の中で1番パッとしない気がした。ロボロもそう感じたのか、首を傾げている。
「ほんまにええ子なんよ。初めてやわ、こんなに大事にしたいって思った子」
この言葉に胸がちくりと傷んだ。
スマホの中の彼女さんを愛おしそうに見つめるゾムが、なんだか遠い存在に思えてしまった。
あんな慈愛に満ちた顔、見た事がなかった。何十年も一緒に居る幼馴染なのに、私にはそんな顔は1度も見せてくれなかった。私の方が彼と長く同じ時間を過ごしてきたのに
「どしたん?A。ぼけっとして」
「…うぅん、なんでもない」
「ほぉん…あ、俺そろそろ帰るわ!明日デートやねん」
会計俺が持ったる と伝票を握ってゾムは去っていってしまった。
フードの奥から覗くギザ歯が嬉しそうに微笑んでいて、彼の背中を見送る事しか出来なかった。
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