365日 (ページ10)

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扉② ページ10

「あの、ちょっといいかしら？
Aさんの事で、最近気になることがあって…。」

店長が、声を落としそう言ったので
少し心臓がキュッとしながらも
カウンターへ目線を戻し、座り直す。

「前々からAさんに馴れ馴れしい
男性のお客さんが居たんだけど
ここの所少しエスカレートしてきて。

初めは、軽口を叩いているだけかなと思っていたんだけど
最近は何だか、話が通じない様な感じで
この間、無理矢理連絡先を渡していたのよ。」

馴れ馴れしい…もしかしてアイツか、と
以前、Aのシフトを聞いていた男の顔を思い出す。

睨みつけたので大人しくなるかと思ったが
そう簡単には行かなかったかと、舌打ちをする。

「彼女がいない時、よく私にも
いつ入ってるんだって聞いてくるのよ。

私も彼女も適当にごまかすけど、相手がお客さんの手前
邪険に扱うわけにもいかないしね。」

頬に手を当て、ふうっとため息をついた。

「そいつはいつ来ることが多いのですか？」

「そうね…大体、木曜日と金曜日の夜に来ているわ。」

「そうですか…。
俺も、気をつけておくようにします。」

軽く頭を下げると、店長はどこか嬉しそうに笑った。

「Aさんから、たまにあなたの話を聞くの。
彼女の生い立ちの事は何も知らないけど
あなたのような人が居てくれて、ほっとしているのよ。」

店長がそう言うと、ちょうど鈴の音がしたので
振り返ると、Aがドアを開けて入ってきた。

今の話を聞いた直後だったのもあり
自然と微笑みながら迎えると
目があったAは固まり、顔を赤くした。

『な、中堂さん…。
いらしていたのですね。』

赤くなった顔を誤魔化すように
口元に手の甲を当て、こちらへ近づいて来る。

「ああ。」

「じゃあ、私は休憩に入らせてもらうから
後はお願いね。」

店長は、Aから買い物袋を受け取ると
奥へと入って行った。