365日 (ページ5)

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hinder the way② ページ5

「ありがとうございます。」

久部さんは、先輩なのにいつも謙虚だ。

『いえいえ。
そういえば、中堂さんはいつもブラックですよね。』

受け取ったコーヒーを一口飲み、私を見ると

「ああ。お前はラテだったよな。」

思いがけない返しに、一瞬驚いたが
すぐに嬉しさに変わった。

『はい。覚えていてくださったのですね。』

自分のカップにも残ったコーヒーを注ぎ、ミルクだけ入れる。

「Aさんの淹れてくれたコーヒー、おいしいです。」

『そんな…。変わらないですよ。』

褒められ慣れていないため恥ずかしくなり
ポットを片そうと思ったところで、はっと思い出した。

『中堂さん、忘れるところでした。
これ、もしよろしければ…』

デスクに置いていた手提げを差し出す。

『あの…お弁当です。
この間のお礼になるかは分かりませんが…』

差し出がましかっただろうか。
迷惑かもしれない。

そんなマイナスなことばかり考えていたが
思っていたよりもすぐに手が軽くなった。

「助かる」

『…良かった…』

はーっと胸に手を当て、ようやく肩の力が抜けた。

「Aさん、料理されるんですね。」

『一人暮らしなので、必然的にですが。』

「僕も、Aさんの料理…」

「A」

久部さんの話を遮って、中堂さんが私の名前を呼んだ。

自分の名前を呼ばれただけで、こんなにも胸が高鳴るなんて知らない。
音が聞こえてしまうのではないかと思うくらい、心臓の音がする。

「まとめてもらいたい資料がある」

コーヒーを片手に、所長室のドアを開けて導いてくれる。

『は…はい…！』

久部さんに、失礼します、と会釈し
今だうるさい胸に手を当てたまま
開けてくれたドアにおずおずと入った。

私が中に入った後、中堂さんがドアを閉める時に
久部さんを睨みつけたとは知らずに。