365日 (ページ37)

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未来のために① ページ37

閉店準備も終わり、デザートの仕込みもひと段落した所で
限られた照明だけが灯る静かな店内で
スマートフォンを操作する。

3コールの後に、彼の声が聞こえて
少し疲れた体に、温かな気持ちが広がった。

「おう。終わったか？」

『はい、こちらはもう終わりそうです。
系さんはどうですか？』

「俺もだ。今から向かう。」

『気を付けて来てくださいね。』

「ああ。俺が行くまで鍵は閉めておけ。」

系さんはいつも、夜道ひとりにならないよう
気遣ってくれる。
少し、心配しすぎなほどに。

帰り支度を始めた頃に、お店のドアがノックされた。

『お疲れさまです。』

ドアを開けると、系さんがしかめっ面をして立っている。

「相手が誰か確認してから開けろ。」

『すみません…系さんだと思って思わず…』

下を向くと、頭をくしゃっと撫でられた。
恐る恐る見上げると、系さんは少しばつの悪そうな顔をしている。

「悪い。
ただ、危険だから気をつけてくれ。」

『はい。気をつけます。』

注意されたばかりなのに
撫でられただけでこんなに嬉しくなるなんて
犬の様だなあなんて自分で思う。

きっとしっぽがあったら、ブンブンと振っているだろう。
耳だってきっと、飛行機のように後ろに倒れている。

お店を出ると、暖かな風が吹く。
大きく息を吸い込むと、春の風のにおい。

『随分暖かくなりましたね。』

「ああ。」

『風のにおいも、すっかり春です。』

「におい？意識したことないな。」

『そうですか？ほら、暖かい日のにおいがします。
同じ気温でも、もう体感は違いますね。』

「そうだな。」

系さんは、くんとにおいを嗅いだ後
柔らかく笑ってこちらを見た。
暗闇の中でも、彼の周りだけ明るく見えて、くらくらする。