365日 (ページ3)

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HERO③ ページ3

恥ずかしさにいても立ってもいられなくなり、体を前に向けると
そこでようやく、雨が降っていることに気が付いた。

『予報では午後からだったのに…』

つぶやき、ちらっと中堂さんを見ると、手ぶらだった。

『中堂さん、もしかして、私のせいで
降りる予定だった駅より前に降りてしまっていますか…？』

「お前は？」

『私は大学に向かう所でしたので、ここからは1駅ですし
歩いていこうと思います。』

「俺もちょうどその辺に用があったんだ。
気にするな。」

そう言って歩き出そうとする中堂さんに
慌てて声をかける。

『それなら、良かったらこの傘使ってください。
中堂さんが濡れてしまいます。』

傘を差し出すと、少し間があった後に受け取ってくれた。

迷惑ではなかったか心配してしまったが、ほっとして
『では…』
と言いかけた時

「行くぞ」
と渡した傘をさして、中堂さんがこちらを見ていた。

『えっ？』

「早く来い」

『いいんですか？』

当たり前だという顔をして待っていてくれる。
嬉しくなって、小走りで駆け寄った。

『傘持ちます』

「届かねぇだろ」

『め、目一杯上げれば届きますよ』

「いいから持たせとけ」

『すみません…ありがとうございます』

傘をこちらに傾けてくれていて
中堂さんの肩が濡れていることに気付いた。

『中堂さん、肩濡れてしまっています。
こちらは大丈夫なので、もっとそちらに向けてください。』

傘を中堂さんの方に傾けようとするがビクともしない。

「じゃあもっと寄れ」

空いている方の手でぐいっと引き寄せられる。
腕に顔がつく近さに、心臓の動きが早くなる。

そっと中堂さんを見上げると、分かりづらいが
少し微笑んでいるように見えた。

先程まで感じていた恐怖は、いつの間にかどこかへ行き
鼻をくすぐる雨の匂いと、1本の傘で並んで歩いている時間に
幸せを感じていた。

私の視線に気付いたのか、中堂さんと目が合う。

「どうした」

『いえ…なんか、幸せだなぁと思って…』

傘を持つ手に、そっと頭を寄せてつぶやいた。