三十九話 ページ40
あれから一年近く経ち、零くんも落ち着いてきて何とか立ち回れるようになってきた。最初はジンさん辺りから怪しまれたけど、飼ってたペットが亡くなった云々で何とか乗り切ってたなぁ
今日は珍しい非番の日なので、
そんな中、ふととある遊園地の近くを通っている事に気づく。ここの遊園地はよくお父さん達と行ったっけ
『……そろそろ帰ろうかな』
胸の中で渦巻く憎しみが俺の事を苦しめる。今にもなにかに八つ当たりしてしまいそうな気分で外を出歩くのも駄目だ。そう思い自分の家に帰ろうと踵を返した時の事
……突然、俺の携帯の着信音が鳴った。なんだろうと出てみると、そこには懐かしい人の声が聞こえてくる
松田〈あぁ、A先輩か?こういう時には出てくれるんだな〉
『あ、陣平君だ』
荒んだ心に後輩の声が滲み渡り、少しだけ癒された気分になる単純な俺。どうしたの、と明るくいえばか細い声で陣平君は話しかけてきた
松田〈先輩、萩原の事ありがとう〉
『うーん、もう何年前の話かな?』
松田〈でもあの時俺は言えなかった。今言わなきゃなんだ〉
出てくれて助かったと話す陣平君に、何時だって変わらないよと笑うも陣平君からそうだなとは帰ってこない。嫌な予感がした俺は陣平君に質問をなげかけた
『今、危ないことしてるの?』
松田〈っ……〉
息が詰まる様な、喉の奥から絞り出たような声にもならない音が俺の耳に入った。図星なんだ
すぐに何処にいるのかを問いただし、彼が目の前の遊園地に居ることを知る。どうやら爆弾処理で自分の手に負えないものを扱っているようだ。ましてや、時限爆弾
『一人で乗り込んじゃった訳だ』
松田〈萩原の奴にまた何かあったら困るんで〉
『それは研二君も君に思ってることだよ?』
松田〈……〉
心からの親友を、どうして心配しないだろう。危険な場所に行く親友の背中は、見ていてとても辛いものの筈だ。苦しい筈だ
俺だって、そうなんだから
『爆弾の仕組みを教えて。何とかする』
松田〈……どうにか出来るのか、先輩〉
『何とかしなきゃでしょ。……大事な後輩を死なせたくなんてない』
遊園地の入口へと向かいつつそう話す俺に、陣平君は「相変わらずイケメンだなあんた」とくつくつ笑う。笑う余裕は、あるみたいだね陣平君
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作者名:アンドゥ | 作成日時:2020年3月11日 1時